生まれてきたことに−4
ディルムッドを皮切りに、他のサーヴァントたちからも次々と祝われ、今回もサンソンが裏で暗躍していたのだと分かる。
そのサンソンとは、食堂へ向かう途中の廊下で出くわした。
「あぁ、マスター」
「サンソン、ちょっと探した」
こちらを見るなりふわりと微笑んだサンソンは、唯斗のすぐ目の前で立ち止まる。
「僕もあなたを探しに食堂へ向かっていました。誕生日おめでとうございます、マスター。バラの花束でもご用意したかったのですが…」
「フランス人かよ…いや、フランス人だったな」
「ええ、そうですとも。愛しい人へ贈るものは、やはりバラが相応しい」
臆面もなくそう言うサンソンは、やはりフランス人だと感じさせる。アストルフォやランスロットは、生きていた時代としては、フランスにフランスらしさが芽生える前の中世の時代であるため、伝説上後付けされたフランス人っぽさに過ぎないのだが、生粋のフランス人であるサンソンともなるとやはり違う。
「愛しいて…ほんと、俺相手に何言ってんだ」
「おや、分からせて差し上げてもよろしいんですよ、夜にでも」
途端に妖しい声で唯斗を抱き寄せたサンソンは、確信犯だ。こちらが理解していると分かっていてこうしている。
当然だ、さすがに、ディルムッドやサンソンから向けられる感情の種類が特別なものであるとは、頭では理解していた。とはいえ、いまだに「なぜ」と思ってしまうし、つい照れて分からないフリをしてしまう。
それらを理解して、あえて誘うような声音になるサンソンは、それもまた、フランス人らしい駆け引きのようなものだった。
「ばか、全部許しそうになるからやめろ。俺そういうの慣れてないんだ、これだけ助けてもらってる相手なんだから、ほんとに全部許しそうになる」
「……そう言われて踏みとどまれる男はそういません。僕は加減してあげますが、他はそうはいかないでしょうから、気を付けてください」
少し耐えるような声でサンソンはそう言った。至近距離で見上げると、極めて優しいアクアマリンの瞳がこちらを見降ろしていた。加減をしろと遠回しに言った唯斗の意思を尊重してくれるようだが、それもこれもすべて、サンソンの唯斗に向ける感情の最も大きな部分が「大切にしたい」というものだからなのだろう。
こんなにも心優しい人が処刑をさせられていたのだと思うと別の意味で胸が苦しくなるが、だからこそ、こうしてサーヴァントとしてそばにいてくれている。
「…うん、ありがとう、サンソン」
「いいえ。花束に限らず、プレゼントをご用意しようかと思いましたが、バレンタインと違って、出生日が不明なことの方が多いサーヴァント相手では返す機会がありません、マスターが心苦しく思うだろうということで、他のサーヴァントにも渡さないよう勧めておきました。ディルムッドも花束を用意しようとしていましたが」
サンソンは空気を払しょくするように会話を変えて、体を離した。離れる体温を少し寂しく思いながらも、案の定なディルムッドに苦笑する。それにしても、本当に細かいところまでサンソンは考えてくれている。
「いつも本当にありがとな、サンソンのそういうところ、いつも助けられてる」
「あなたに出会い、あなたを助けることができる今に、僕はとても感謝しています。それを、あなたの誕生日に合わせて伝えたかった」
ディルムッドと同じく、サンソンも出会えた喜びを伝えてくれた。今度はまた異なる胸の苦しさを感じながら、再び唯斗は、この心優しい処刑人に礼を言った。