生まれてきたことに−5
サンソンと分かれて、唯斗は本来の目的であった夕食のために食堂に入る。食事時なので混み合った食堂内に入ると、カウンターからエミヤが顔を覗かせる。そして、唯斗を見て微笑んだ。
「来たかね、マスター。ムッシュから話は聞いている。君は特別メニューだ」
「え、」
何かと思ってカウンターまで行くと、エミヤがトレーを差し出す。そこには、いつもより豪勢なステーキなどの料理が並んでいる。
「食べ終わったらケーキを持っていこう。なに、ピースサイズの簡単なものだ、気兼ねする必要はないさ」
「マジか…ありがとう、嬉しい」
今日は特別に、野菜はスープだけに留めてくれている。ここでもサンソンが言ってくれていたらしく、エミヤは気兼ねしない程度に留めて準備してくれたようだ。
そういう気配りが上手いのは、サンソンとエミヤの長所である。
そうして席について食べ進めていき、たまに通りかかったサーヴァントたちと短い会話をしつつ食べ終わると、エミヤが見計らったようにケーキを持ってきてくれた。ショートケーキのようで、本当に簡単なものだ。
元から小食の唯斗にはこれでちょうどいい。コーヒーまで用意してくれていて、至れり尽くせりだった。
最後の一口をちょうど食べたところで、食事を終えてトレーを片付けにカウンターに向かう立香とマシュが通りかかった。
「あ、唯斗お疲れ様」
「お疲れ様です!」
「お疲れ」
立香たちに挨拶を返すと、唯斗が口に運んだ最後の一口を見て、立香はすぐに察したらしい。
「それケーキ?でも今日のメニューなかったような…あ、ひょっとして、今日って唯斗の誕生日だったり?」
「まぁ、一応。サンソンが俺のカルテ見て知っててくれて、エミヤたちにも共有してたらしい」
「そうなんだ!おめでとう!」
「おめでとうございます、唯斗さん!」
立香とマシュも当然のように喜んでくれた。パッと顔を輝かせて、立香はトレーを唯斗のテーブルにいったん置く。ついでにマシュのものも置いてやってから、唯斗のそばに詰め寄った。
「そういえば気になってたんだけど、唯斗って何歳なの?」
そして聞いてきたのは、いまさらなことだった。多国籍なカルデアでは、欧米風に年齢を尋ねないのがマナーとなっており、そもそも上下もあまりないため、気にしたこともなかった。
「17歳になった、んだと思う。あんま実感ねぇけど…」
「じゃあ1999年生まれだ」
「そうなる」
「では私と同じですね、とても同い年とは思えない大人っぽさです!」
どうやらマシュと唯斗は同い年だったらしい。手を合わせて素直に感心する様子に、「老けて見えるってことか」とからかおうとしたが、そんな気も失せる。代わりに、立香に聞いてみた。
「立香は?何年生まれ?」
「俺は1998年生まれだから、二人の一個上。今年で高3になるはずだったから、本当は受験生だったはずなんだよね」
世界が滅びた今、受験などというようなものは遠い世界のことのようにすら思える。変な空気にならないよう、先ほどマシュをからかえなかったこともあり、唯斗はニヤリとして立ち上がった。
急に立ち上がって視線が間近で合った立香は面食らう。
「じゃあ、俺にとっても立香は先輩だな。マシュに倣った方がいいか?」
「へ…いや、そんな今更、」
「藤丸先輩、世界史わかんないとこあったんで教えてください」
くい、と立香の袖を引っ張って、数センチの差しかない立香の綺麗な瞳を見つめる。立香は顔を赤らめつつ、あからさまに挙動不審になった。
「えっ!?いや、めっちゃ新鮮っていうか、世界史で唯斗が分からなかったところ俺に分かるわけなくない?!」
「とても新鮮で素敵ですね!先輩!」
「先輩、顔赤いですよ、照れてんですか?」
「も〜〜!!」
純粋なマシュと明らかにからかっている唯斗に、立香は唸って目元を覆った。愉快なリアクションにくすくすと笑っていると、珍しい様子に注目していたサーヴァントが寄ってきた。
「おうおう坊主、なんだか面白そうなことしてんじゃねぇか」
やってきたのはキャスターで、古参だけあって3人の様子に微笑ましそうにしつつも、会話から状況を察したらしい。
唯斗の頭を乱雑に撫でてきた。
「誕生日らしいな、おめっとさん」
「おや、唯斗殿が生まれた日でいらしたのですね」
すると、同じく近寄ってきたランスロットにも微笑まれる。相次いで祝われ、「ありがとう」と言いつつ少し困っていると、それを目ざとく察した立香が反撃に出た。
「そうそう!今日は唯斗の誕生日だよ!めでたくない!?祝うべきじゃないかな!!」
「おい、立香、何言って、」
「お、いいねぇ、そんじゃ今日は祝い酒のひとつでも飲まなきゃだよなァ!海賊連中でも呼ぶか。唯斗んとこのヤツらも来るだろ、アキレウスあたり声かけるか」
立香の意図を汲んだのか、キャスターはそう言って盛り上がり始める。すぐにランサーや、聞いていたビリー、ロビンフッドも応じて、あれよあれよと酒好きのサーヴァントたちが集められることになる。
アンデルセンやシェイクスピア、アタランテに呼ばれたアキレウスとダビデ、ランサーに呼ばれたディルムッドとアーラシュ、さらには黒髭にドレイク、アストルフォ、トリスタンなども集まる。