神聖円卓領域キャメロットI−1


7月25日、ついに第六特異点へのレイシフトの日となった。

いつも通り、ブリーフィングにはロマニ、ダ・ヴィンチのほか、立香、マシュも揃う。ただ、いつもと違うのは、ここにアーサーがいないということだ。
正式にアーサーは留守番が決まり、今回のレイシフトではダ・ヴィンチが同行することになっている。これが決まったときはロマニはもちろん、唯斗のサーヴァントたちも難色を示した。

危険な旅に唯斗の自身のサーヴァントがいないということを懸念するのは当然だったが、唯斗が自衛能力を高めたこと、そして何より、特異点の異質性から最終決定された。

今回のレイシフト先は1273年のエルサレム、第九回十字軍がマムルーク朝に敗れ、西欧国家のレバントからの撤退が行われた直後の時代である。
十字軍とは、平たく言えば西欧キリスト教国家による聖地エルサレムのイスラーム勢力からの奪回を目指す連合軍のことだ。

395年にローマ帝国が東西に分裂したあと、東ローマ帝国は7世紀ごろにギリシア人化していき、ローマの残滓から新たなビザンツ帝国という国家に変容する。なお、そのように当時から名乗りを変えていたわけではない。ローマの東西分裂は、そのままキリスト教をも東西に分裂させ、やがて西のローマ教会はカトリック、東のコンスタンティノープル教会は東方正教会と呼ばれるようになった。

このキリスト教の東西分裂は、西ローマ帝国が滅亡してフランク人によるフランク王国による西欧の統一、そしてその分裂によるフランス王国・神聖ローマ帝国の成立に至ってもなお続き、それはそのまま東西欧州の分断となっていた。しかし、1095年にイスラーム国家であるセルジューク朝がアナトリアを占領すると、ビザンツ帝国はカトリックのローマ教皇に救援を依頼する。その名目こそが、奪われた聖地の奪回だった。
教皇ウルバヌス2世はこれに応じ、西欧世界をまとめて第一回十字軍が組織される。

第一回十字軍は目覚ましい勝利を挙げ、1099年までにエデッサ伯国、アンティオキア公国、トリポリ伯国などが成立、それらを名目的に統治する立場として、エルサレム王国が成立した。

しかし、これらの国家建設は、イスラーム勢力の隙を突いて新たな海外領土を獲得していくいわば植民地の争奪にも似たものだった。フランス、神聖ローマ、イタリアなど西欧の勢力争いが形になったものでもあったのである。それは十字軍内に不和をもたらす。

こうして、1144年にセルジューク朝によってエデッサが占領されたことで組織された第二回十字軍は、統率が取れず敗北。さらに、セルジューク朝の将校であり、ファーティマ朝を乗っ取ってエジプトにアイユーブ朝を立てたイスラームの大英雄・サラディンはエルサレムを奪った。
これに対して第三回十字軍が組織され、イングランドの獅子心王リチャード1世が善戦するも、エルサレムは奪回できずに終わる。このころにはもう、西欧諸国による聖地奪回は徐々に変質し始めていた。

第四回十字軍ではビザンツ帝国を補給を口実に攻撃し一時的に断絶させ、第五回・第六回十字軍はアイユーブ朝エジプトを攻撃するも敗北。第七回十字軍はアイユーブ朝が断絶してマムルーク朝に代わる隙を突くこともできず敗北し、第八回・第九回もフランスと神聖ローマ帝国、ローマ教会、イタリア諸都市、アラゴン王国など様々な勢力の対立によって敗北してしまい、十字軍国家群も次々と滅亡していった。
第九回十字軍では、イングランド王エドワード1世が山の翁と呼ばれる暗殺者に殺害されかけたことがきっかけでイングランドへと帰還したという逸話があるが、恐らく作り話だろうとされる。このエドワード1世こそ、ジャンヌ・ダルクが活躍する百年戦争を引き起こす人物である。つまり、第六特異点は第一特異点に繋がる時代となっている。

それもあって、第六特異点は早くから特定できていたものの、シバの測定が安定せず、今日までレイシフトができなかった。それというのも、第六特異点が、徐々に人類史から独立して切り離されようとしていたからだ。このままでは、ソロモンのことがなくとも人類史は狂ってしまう。
このことから第六特異点は人理への影響度を示す人理定礎がEXと評価され、ダ・ヴィンチが特別に帯同することになっている。何もかもが特例の旅となる今回、アーサーがいないことは正直不安なのは確かだが、第一特異点のときと違い、唯斗もある程度は成長した。あとは、とにかく目の前のことを着実にこなしていくだけだ。


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