神聖円卓領域キャメロットI−5
ニトクリスの語るところによると、オジマンディアスはこの地にエジプト領ごと召喚され、それを守るためにニトクリスを召喚して領土を守らせているそうだ。
そんなエジプトに敵対する勢力は山の民という土着の者たちだけではない。
「山の民と、先ほど言っていた聖地エルサレム、聖都の民ということだね?」
そのダ・ヴィンチの言葉に、ニトクリスはおもむろに足を止めた。
そして、こちらを訝しげに見つめ、距離を取る。
「…なんですって?いまさら、エルサレムなんて…そんなもの、もう存在しません!この地に住まう者は誰もが知っていることです!あなたたち、本当に一体何者なのですか!?あなたたちへの礼と私の任は別の話。その言葉に偽りがないか、今一度試練を与えます!」
「…まぁ、そうなるか。いくらなんでも、認識が合わなさすぎる」
「どういうこと?」
ニトクリスは下がって、砂嵐が再び吹き始める。その中で、立香は唯斗に尋ねた。
「古代エジプトが丸ごと再現されているんなら、このときエジプトにあったマムルーク朝が存在しないことになる。マムルーク朝は十字軍国家が滅ぼされる直接的な原因だ。しかも、北東からはモンゴル帝国も迫ってた。なのに、聖都の民なる勢力は強力そうだったし、そもそもマムルーク朝が消滅してる時点でそれだけで特異点になってておかしくないレベルだ。ちょっと正史と違いすぎる」
「カルデアから来たってことを隠すには、無理があるってことだね」
「あぁ。とりあえずは、戦闘だ」
呼び出されたスフィンクスは、ダ・ヴィンチの見立てではその力が1割程度に抑えられているらしい。であれば、こちらにも勝機はある。
「
天よ、地よ、真実を見よ」
唯斗は左手を掲げて詠唱する。短いそれは攻撃魔術として高度なもので、ブルトン語詠唱だ。
唯斗の詠唱が終わると、途端にスフィンクスの足元から砂を巻き上げて巨大な石柱が出現し、空中からも数メートルの巨石の柱が降り注ぐ。そして、それらはすべて爆発を起こした。
「うわ、すご…」
「魔力でできたメンヒルだ」
唯斗が行ったのは、故郷ブルターニュに多く見られる巨石メンヒルを魔力で再現した魔術だ。地中、空中から挟むように出現して拘束し爆発する。
爆発が止んだところで、マシュとダ・ヴィンチの攻撃が入り、スフィンクスは倒された。本当に力がひどく抑えられているらしい。ニトクリス自身は短命の王だったことによるものだろう。
「…見事なり!汝らは太陽王に、その力を認められた!であれば、これより私の案内は不要!恐れずにこの嵐を抜けるがよい!」
そしてニトクリスはそう告げると、砂嵐の中に消えていった。彼女なりのけじめのようだ。
その言葉に従って嵐の中を進んでいくと、ひときわ強い風の後、急にそれが消えた。忽然と砂嵐が止まったかと思うと、目の前には、ルクソールを思わせる列柱、アブシンベルのような巨大な壁画と石像、そしてカイロにあるようなピラミッドが聳え立っていた。
オジマンディアスが建造した新首都ペル=ラムセスにあったとされる大複合神殿だ。カルデアの戦いでは、固有結界として宝具にもなっていた。
さらにダ・ヴィンチの杖による測定で、ここが古代エジプトそのものであることも判明した。どうやら、13世紀の中東に紀元前のエジプトが丸ごと転移してきているらしい。さらにその一部がおかしなことになっているとのことだったが、今はそこまで気にしている余裕もない。とにかく、オジマンディアスと会わなければ始まらないだろう。