神聖円卓領域キャメロットI−10
そうしてしばらく席を入れ替えて気分も切り替えつつ進むこと丸一日、特異点に降り立ってからすでに二日が経過したころ、ようやく砂漠を抜けることができた。古代の魔力であるため礼装が対応しておらず、酸素ボンベをつけていたが、それも外して呼吸ができるそうだ。
しかし、砂漠を抜けて一同の前に広がった光景は、予想だにしていないものだった。
「……なんだ、これ………」
「私の最悪の予想が当たってしまったということか」
気温は48度、先ほどの砂漠よりもさらに灼熱の大地は乾ききっており、ひび割れた地面はところどころから炎が噴き出している。地獄を描くとこうなる、といった様子の大地が延々と続いていた。
ダ・ヴィンチが言う最悪の予想とは、人理定礎があまりに乱れてしまったがために、ソロモンによる人理焼却にも似た事象がすでに特異点内で発生しているのでは、というものだったらしい。
つまり、この大地はやがて燃え尽きる。だから、オジマンディアスはあれ以上エジプト領を拡大できなかったのだ。聖杯を使うまでもなく、もう砂漠の向こうには、人理の及ぶ空間など残っていなかったのである。
そんな乾ききった大地を進み始めてすぐに、新たな異常なものと出くわす。
「あれは…もう、だめか……」
「唯斗…?」
「こっちに向かってくるあの人影。屍霊になりかけた人間だ」
「ッ!」
後部座席で立香と並んでいると、バギーに接近してくる人影が見えた。あれは生きた人間だが、もう取り返しのつかないところまで堕ちてしまっている。
「マスター!これは…!」
「人理が乱れるとは、こういうことだ」
ダ・ヴィンチが言う通り、これがこの世界の姿なのである。
なんとか、立香の指示のもとマシュとダ・ヴィンチは峰打ちで済ませた。唯斗もスタン程度に攻撃は抑えており、誰も死んではいない。
仲間を呼ばれる前に早く先に進むのが上策だが、立香は意を決したように運転席のダ・ヴィンチを見た。
「まだ、水とか余裕あったよね?」
「…だ、そうだ。私は反対だけど二人は?」
「はい、賛成に一票です!いかがでしょう、唯斗さん」
マシュと立香に揃って視線を向けられる。ダ・ヴィンチも結果は分かっているようだ。
多数決であれば、唯斗がダ・ヴィンチと同じ反対につけば同票になる。しかし唯斗は、ため息をついて隣に座る立香に視線を向けた。
「…賛成だ。意味があるとは思えないけど、意味があることしかしちゃいけない、ってわけでもないしな。好きにしろ」
「っ!唯斗ありがと!」
おもむろに立香に抱き着かれる。大した身長差などないのに、トレーニングの分なのか、立香の方が逞しく若干抱き込まれるようなイメージだ。
気のせいだと言い聞かせつつ、「早くしろ」とだけ言って押しのけた。
こうして、心を失った者たちに水を分け与え、そそくさとバギーを走らせようとしたところに、その中の一人から声をかけられた。振り返ると、男らしき声が聞こえてくる。
「聖都に行くのか」
「そうさ。聖都にはなんでもあるんだろう?」
「……あぁ。そうだ。世界を焼き尽くそうとした十字軍を皆殺しにした、偉大な獅子王がいる街だ。命が惜しけりゃ、砂漠に引き返すんだな」
「ありがとう。でも、俺たちは聖都に行くよ」
意志の強い立香の言葉に、男は何も言わなかった。
こちらも視線を前に戻し、今度こそバギーを走らせる。
だんだんと、荒野の向こうに夕日が沈み始めたころ、ふと思い出したように通信を繋ぐようダ・ヴィンチがマシュに告げた。
『あぁ良かった!やっと繋がった!大丈夫かい!?今回も予想外のアクシデントがあったのかい!?』
バイタルで全員が無事であることは管制室で分かっていたはずだが、それでも、いつも通り聞こえてきたロマニの声に、全員が苦笑した。
アクシデントだらけの出だしとなったが、ようやく、特異点の旅が始まったような気がした。