神聖円卓領域キャメロットI−12
翌朝、目を覚ましても延々と火の手の上がる平原は続いており、変わらず聖都を目指してバギーを走らせた。
途中、遠くの村から移動してきたという難民を保護し、途中まで情報収集がてら同行してから分かれる。敵対勢力がまだ分からないため、下手に目立つ真似はできないからだ。
難民たちの話をまとめると、もう少し具体的なことが見えてきた。
まず、十字軍は間違いなくこの地にやってきて、聖杯によってこの地を支配しようとした。そこに現れたのが獅子王なる人物であり、十字軍を壊滅させる。
一方、十字軍側によって聖杯の力で召喚されたオジマンディアスも、十字軍から聖杯を奪って、オジマンディアスとともに転移してしまった古代エジプト領に引きこもった。
十字軍を壊滅させて、エルサレムを破壊し、新たな聖都を築き上げた獅子王と、古代エジプトを統治するオジマンディアスは、勢力が拮抗する状態となる。そしてそのころにはもう、特異点化が始まっており、聖都とエジプト領以外の地域から人理が崩壊し始めた。
人理崩壊にともなう大地の焼却によって住む場所を失った人々はそれぞれ聖都を目指し、獅子王もまた人種や宗教に関係なく難民たちを受け入れているという。ただ、一部の人間はエルサレムを滅ぼした聖都の騎士と獅子王をよく思っておらず、山岳地帯に山の民として潜伏しているとのことだ。
そして聖都は月に一度、難民たちに門を開き、そこで聖抜の儀という儀式を行ってから、人々を招き入れるのだという。
ここまで人理定礎が狂ってしまえば、聖都に集まったところでじきにこの空間ごと人類史は崩壊してしまう。いったい何を目論んでいるのだろうか。
「聖杯を使って特異点を切り離す、っていうんなら、特異点Fでオルタ化したアルトリアやアメリカでエジソンが企んでいたけど…聖杯はオジマンディアスの手元にある。奪いに行くまで準備期間にしてるのか…?」
「その線は私も考えているが、十字軍をわざわざ滅ぼしたりエルサレムを破壊して上書きしたりするような行動の説明がつかないね。こればかりはもう推測しようがない」
後部座席で隣に座るダ・ヴィンチが言う通りだ。
唯斗は考えるのをやめて、夜の暗闇にぼんやりと浮かぶ白亜の威容を眺める。
「いくらなんでも、建築技術が高すぎる。あの都市そのものが固有結界みたいだ」
「外部から見えているから固有結界ではないだろうが、それにしても私もそれに近い原理だとは思っているよ。さ、この辺りで降りよう。悪目立ちするからね」
いよいよ聖都に到着したが、遠目からも、聖都の巨大さは分かっていた。
大理石のような白亜の巨壁が街を取り囲んでいるが、その高さは20メートル以上はあるだろう。さらにその向こうには、高くそびえる尖塔がいくつも見えていて、巨大な城もあった。
あれを短期間で純粋に建造できるわけがない。なんらかの魔術によるものだ。
そうして、バギーを降りて聖都に近づくと、途中、セルハンを名乗る追剥に出くわし、これを蹴散らした。
戦闘自体はなんでもなかったが、「人でいたいなら近づくな」という忠告を残して去っていった。商魂たくましいムスリム商人たちを聖都建造時に虐殺したというが、その生き残りであるというのが本当だとすれば、ますます獅子王の目的が理解できない。物流を破壊して地域全体を疲弊させる行為だというのに、人々を保護している。相反する行動だ。
そうして、城壁正門の難民キャンプのような場所に着くと、それぞれマントを体に巻いて難民たちに紛れる。このまま難民のふりをして聖都に忍び込み、獅子王との接触を図るのだ。
ターミナルポイントの設置すらできないままだが、聖抜の儀は月に一度、ちょうど今晩であるということで、この機を逃すわけにもいかなかった。