神聖円卓領域キャメロットI−13


千人近くが集まった難民の群衆の端、最も正門から離れた位置で待機する。
群衆を取り囲んでいるのは、魔力で構成されているように見える騎士。砂漠で最初に出会った敵の一人ではなかっただろうか。
やはり、騎士の防具の意匠は中世前期のイングランドのもののようだ。律儀に難民たちを守ってくれているのか、それとも。

そうやって正門の様子を伺いながら待っていた、そのときだった。

突然、夜の暗闇は眩い陽光に照らされた。焚火が光源だったはずなのに、突如として太陽が頭上に出現し、聖都を照らしている。いや、よく見ると、正門周辺だけが昼になっていた。


「固有結界…幻術…いや、でも太陽の熱も感じる」


五感が作用しているため、単純な結界や幻術の類ではない。


「え、なに!?」

「これは…!目の錯覚ではありません、ここだけ昼になっています!いったい…?」


立香とマシュも慌てて、マントに顔を隠しながらもあたりを見渡した。
さすがに動揺しているのは唯斗たちだけではなく、難民たちも突然のことに驚いて立ち上がっていた。


「落ち着きなさい」


困惑する人々に、低く張り詰めた声が響く。涼やかで、しかし厳かなそれは、聞き馴染みの良さそうな声だ。
声の主を辿ると、城壁の上からこちらを睥睨する騎士の姿があった。顔まで覆う兜はしておらず、上等なマントの下には立派な甲冑が輝く。体格の良い男は、一目でサーヴァント、それも円卓の騎士だと分かった。


「これは獅子王の奇跡。常に太陽の祝福あれと、我が王が私に与えたもうた祝福(ギフト)なのです」

「ガウェイン卿!円卓の騎士、ガウェイン卿だ!聖抜が始まるぞ、聖都に入れる!」


騎士の正体はアーサー王伝説の最も主要な人物でもある円卓の騎士、ガウェインだった。
その金髪碧眼の美貌は確かに伝説通りである。
難民たちは一斉に喜びの声を上げ、ガウェインを縋るように見上げた。


「……最悪だ。こんなことが、あり得るのか」

『レオナルド?どうしたんだい?』


愕然とするダ・ヴィンチに、通信からロマニの困惑する声が聞こえてくる。
そういえば、トリスタンを見たときもこうなっていたし、ギフト、と言っていた。今もガウェインはギフトと口にした。


「今すぐここを離れるんだ。聖抜なんてよく言ったものだ、これじゃ…」


そのダ・ヴィンチの言葉が終わる前に、ガウェインは続けて口を開いた。


「人間の時代は滅び、また、この小さな世界も滅びようとしています。主の審判は下りました。もうこの地上に、人の住むことのできる場所はありません」


小さな世界、とは特異点のことを指しているのだろう。人間の時代が滅びたとは、人理が滅びたということか。
であれば、彼らはソロモンによる人理焼却を知っていて、それを受け入れているように思える発言だった。
ダ・ヴィンチは、何らかのことを理由に、ガウェインから敵性反応を感じていたのである。


「…そう、この聖都キャメロットを除いて。我らが聖都は完全、完璧な千年王国。異民族、異教徒であっても受け入れます。ただし、我が王の赦しが得られれば、ですが」

「……最果てに導かれる者は限られている」


そこに、新たな声が落ちてきた。正門の上に佇んでいる、兜で顔を覆った女性らしき人物。その凛とした美しい声は、聞き覚えがあった。


「故に、私は選び取る。決して穢れない魂、生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を」


そう女性が告げた瞬間、人々の中から3人、光に包まれる人影があった。どよめく群衆を横目に、女性は「回収せよ」とだけ残して消えていった。
ガウェインはこちらを向き直り、そして、剣を抜く。聖剣エクスカリバーの姉妹剣とも言われるそれは、正門の頭上だけに輝く太陽の光を受けて鈍く輝いた。


「これより、″聖罰″を始めます」


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