神聖円卓領域キャメロットI−14
それは、地獄の始まりを告げる合図だった。
城壁から降り注ぐ無数の矢、群衆を囲みながら人々を切りつけ、徐々に包囲を狭めていく騎士たち。人々は悲鳴を上げながら逃げまどい、頭を、胴体を、腕を、足を矢に刺され、腹を、膝を、首を剣に切られながら倒れていく。
虐殺。それ以外の表現は存在しないだろう。一方的に人々が蹂躙される姿を見るのは第一特異点以来だったが、あのときは基本的にことが終わってから遭遇していた。今は、目の前ですべてが起こっている。
「マスター!」
「あぁ、包囲を突破しよう!」
「ま、こうなるか」
立香はすぐにマシュに指示を出す。マシュはマントを脱ぎ棄てて、人々に切りかかる騎士に突撃していった。
それを見てダ・ヴィンチは肩を竦めた。
「さて唯斗君、あの騎士はシャドウサーヴァント級だ。立香君のこと頼んだよ」
「了解」
ダ・ヴィンチとマシュは騎士との戦闘に入り、唯斗は立香のそばで飛んでくる矢や騎士に攻撃を結界で防ぎつつ、なるべく人々に攻撃が当たらないよう群衆にも結界を断続的に展開した。
どうやら騎士は魔力体であるようで、もとは人間だったのか、それとも最初からゴーレムのように作り出されたものなのか分からないが、普通の魔術師やサーヴァントにできることではない。
なんとか一部を切り崩すことで精いっぱいだったが、それでも聖都から増援が迫っているようで、じり貧なのは変わらない。
そこへ、群衆の反対側から別の爆発音が響いてきた。
『君たちの反対側で別の勢力が戦闘を開始した!これなら持ちこたえられるぞ!』
ロマニもそう分析しているのであれば、もうひと踏ん張りだ。せめて範囲攻撃ができるサーヴァント、キャスター・ギルガメッシュやアキレウスが呼べればよかったが、まだカルデアからサーヴァントを呼ぶことはできない。
「ッ!先輩!」
思わずといったように叫んだマシュ。立香とともに視線を辿ると、騎士が先ほど光に包まれていた女性を剣で切りつけていた。どうやら彼女は選ばれたようだったが、その息子らしき少年を庇って血を流している。
そして、騎士は少年を思い切り蹴り飛ばすと、倒れたところに向け、続けて剣を振り上げた。
瞬間、マシュはこれまでにない敏捷性を発揮して飛び出して、騎士を盾で吹き飛ばす。甲冑を砕き、叩きつけた先の地面すらえぐる程の強さだ。
しかしすでに母親は事切れている。さらにその向こうでは、ついにガウェインがこちらを視認したのが見えた。
「…立香、マシュとあの子を」
「?分かった」
唯斗は立香とともにマシュの元まで走ると、マシュが少年を保護し、立香もあたりを見渡して撤退しようとする。
そんな立香たちの前に立った唯斗を分かっていたように、正面に、ふわりとジャンプしたガウェインが着地した。
『ここらが潮時だ、早く撤退を!』
「それは叶わぬ望みです」
息を飲んだ立香とマシュを背後に、唯斗は正面に立つガウェインを見据える。冷静沈着な姿は、こちらを敵とは認識していない。その程度の存在とは、思っていないのだ。
「見事な暴動でした。異教徒にもまだ、あなた方のように戦う者がいたのですね。しかし聖都正門での暴挙、万死に値します。円卓の騎士ガウェイン、あなた方を処断します」
一目見て、とてつもない力を持ったサーヴァントだとは分かっていた。当然クラスはセイバーだろうが、それを差し引いても、サーヴァントとしてあまりに上位の存在だ。
『やはり聖都の騎士はアーサー王伝説の騎士たちか…!しかし、あのサーヴァントは特異点Fともロンドンとも違う側面、もはやサーヴァントの枠に入らない怪物だった…!いったいどういうことだ!?』
「遠見の魔術を使う魔術師…では、あなたたちが人理の守り手ですか」
やはりあの女性はアルトリアだったようだが、特異点Fのオルタ、ロンドンのランサーとも違う霊基だったらしい。それも、サーヴァントという枠に収まりきらないレベルだという。神霊サーヴァントだって観測してきたカルデアがそう判断するのなら、まさに規格外ということだ。
そして、こちらがカルデアだと気づいたガウェインは、それでも顔色を変えなかった。