神聖円卓領域キャメロットII−1
聖都を脱出した後は、山岳地帯に向けて北へ進みつつ、ベディヴィエールと改めて情報共有がてら自己紹介などを済ませた。
話によると、ベディヴィエールはマーリンの協力を得ているらしく、アガートラムもヌアザの銀腕を模したレプリカだそうだ。いわば人工宝具ということだが、それでもマーリンが作ったのであればただのレプリカではないだろう。
一方で難民たちともベディヴィエールが話をつけ、この先の山岳地帯における道案内、および山の民の村に着いた際に、聖都の騎士と同じ意匠を施した武装をしているベディヴィエールとマシュが怪しまれないよう仲介役を頼むことを引き換えに、村まで護衛することになった。
そして、ギフトと呼ばれた得体の知れない力についても、ダ・ヴィンチとベディヴィエールによって明らかになる。
ギフトとは、獅子王麾下の円卓の騎士に授けられた特殊な力であり、アーサー王伝説に出てくる方の聖杯の加護を示す。魔術王による聖杯とは違うものだ。
これによって騎士たちには強力な力が授けられており、ガウェインの頭上が昼間になっていたのもそれによるものだろう。
このギフトによって円卓の騎士は並大抵のサーヴァントの域を超えており、カルデアにいるトリスタンやランスロットを基準にしてはならないような相手だと分かる。まともに戦うことは避けなければならないし、ターミナルポイントを設置するまでは会敵すること自体を避けなければならなかった。
聖都から山の民の村まで約二日の工程だったが、しかしことはうまくはいかない。
『後方から猛烈な勢いで迫る敵性反応!すぐ難民の最後尾に到達する!』
「それは早馬の先行部隊だろうね。本隊は後ろさ」
ロマニが鋭い声で通信に告げる。その直前に、ダ・ヴィンチはすでに気配を察知したようだった。
「マシュ、唯斗、まずは難民を守ろう!」
「はい、マスター!」
「了解」
唯斗と立香はそれぞれ足に強化をかけて走り出し、マシュとベディヴィエールを伴って難民の最後尾に向かう。前方からは聖都の粛清騎士を名乗っていた騎士たちが、早馬に乗って向かってきていた。
騎士たちに気づいて悲鳴を上げる難民の列に、唯斗は先んじて結界を展開し、粛清騎士が放った矢をすべて跳ねのける。
『本隊には超強力なサーヴァント反応!恐らく円卓の騎士だ!』
「くそ…!」
これでは難民たちを連れて逃げおおせることはできないし、かといって倒すことだってできない。
ふと、自分が難民を捨てて逃げることを考えていないことに気づき、こんなときながら自嘲する。随分と立香に毒されたものだ。第一特異点のときであれば、容赦なく難民をすべて切り捨ててカルデアの一行だけで山岳地帯に向かっただろう。
だが、それは合理的なようで、結果的にうまくはいかないはずだ。この先も唯斗たちは、誰かの助けと協力を必要とする。誰も助けなかった人間が、助けを期待するのは道理が通らない。きっとこれこそが、立香が人理を救う運命に選ばれた理由なのかもしれない。
まずは粛清騎士たちを全員倒し、難民たちを逃がす。しかしすぐ本隊が接近してきていた。
「っ、この速さ、貴公か、ランスロット…!かくなる上は私が…」
「いやぁ、あの数はベディヴィエール卿だけじゃ無理だろう」
どうやらベディヴィエールは、あの部隊がランスロット率いるものだと気づいたらしい。遠くにいる40人余りの部隊をそこまで詳細に理解することはできないが、この部隊の移動速度は遊撃騎士に名高いランスロットのものであるというのは納得だ。
ダ・ヴィンチは凪いだ声で言うと、おもむろにバギーに乗り出した。やや形が異なっている。いつの間に改良していたのだろうか。