神聖円卓領域キャメロットII−3


ランスロットに追いつかれることはなく、なんとか山岳地帯に入った。
現在ではヨルダン川西岸地区の中心都市になっているラマッラーにあたる辺りから、険しい山間に入っている。

ヨルダン地溝と地中海沿岸の平野とを分ける山岳地帯は、標高こそそこまで高くないものの、乾いて険しい道が続く。
振り返れば、茶色く乾いた平野を見下ろすことができる。標高は高くないが、ヨルダン地溝が海抜より低い世界で最も標高の低い土地であるため、相対的に高い場所にいるように見えるのだ。
恐らくかつて死海と周辺の平地があったであろう荒野には、いくつか巨大なクレーターができていた。あれは難民たち曰く、「獅子王の裁き」というアルトリアによる宝具攻撃の跡らしい。
死にゆく大地にランダムで発生する宝具攻撃。こんなものが、アーサー王の所業とは、とても信じたくはなかった。

そうやってあたり一帯が一望できるほどに日が昇って明るくなっているが、立香とマシュの表情は暗いままだ。それを見て、難民のリーダー格の男が見かねて声をかける。


「…すまない、私たちを守って、彼女が犠牲になるとは……」

「……いや、ダ・ヴィンチちゃんは死んでないよ」

「そう、ですね、きっと…」


立香はマシュを鼓舞するためにもそう返し、マシュも表情こそ暗いままだが同意する。
こういうとき、唯斗は適切な言葉をかけられるような、そんな表現を学べるほど人付き合いをしてこなかった。だがそれに甘んじていたいとも、思わなくなっていた。


「…ダ・ヴィンチはカルデアで召喚したサーヴァントだ、戻ってないってことは、もしかしたら特異点内に生きてるかもしれない。それにほら、Ci vediamoはイタリア語で『また会おう』って意味だし、天才は嘘つかないって言うだろ、いや言わねぇか…や、でもダ・ヴィンチは嘘つかな…いやつくな…あー…その、ほら、な」

「…ふは、ちょっと、唯斗、下手すぎでしょ」


なんとか必死に励まそうとしてみたものの、自分で言いながら疑問が浮かんでしまい、だんだん何を言っているか分からなくなってきた。思えば毎回こんな感じだ。
そんな唯斗に、立香はようやく笑みを浮かべた。さすがに自分でもフォローしようがない。


「…うっせ、慣れないことはするもんじゃねぇな」

「唯斗は可愛いな〜」

「はっ倒すぞ」

「ふふ、でも本当にありがとうございます、唯斗さん。そうですね、カルデアに霊基を登録しているので、可能性はあります」


マシュもそんな二人を見てやっと表情を緩める。
すると通信から、このまま話題を変えようとロマニも乗ってきた。


『ところで、あとどれくらいで村に着くんだい?』

「あと一日ほどだ。ただ、問題があってな…」


男が言うには、このまま一日ほど山間を歩けば東の村と呼ばれる村に着くらしい。しかし目下の問題は、ダ・ヴィンチが用意していた食料問題だった。


「あ…確かに、けが人の手当てや食料の調達、水の錬成はダ・ヴィンチさんがやってくれていました」

『天才というのも問題だな、無意識に頼り切りになってしまう。唯斗君、どれか対応できるかい?』

「治癒はいつもやってるとして、そうだな、水の錬成はできるかもしれない。やってみる」


もともと、この山岳の東にはヨルダン川が流れていた。ヨルダン川は内陸河川と言って、海に流れ出ず内陸で流れが終わるものをいう。ヨルダン川の場合、ゴラン高原あたりから湧き出て死海に注いで終わる。

そのため、すでに乾ききっているが、もしかしたら地下水に残っているかもしれない。転送元地点を曖昧にして召喚する形で左手の召喚術式を使いつつ、錬成魔術でなんとかできるかもしれなかった。


水よ出でよ(ドント ドゥル)


空中に左手をかざして試しにやってみると、手の上に水が出現し、空中に球となって浮かんだ。透明な水玉が宙に浮かんでいるのを見て、聖都で助けたあの少年、ルシュドが歓声を上げた。


「すごい!魔法みたい!」

「魔術な。ロマニ、組成はどうだ」

『うん、完全に普通の水だ。飲料用としてまったく問題はないよ。さすがだね、ぶっつけでできるとは』


どうやら成功らしい。食料はともかく水は一日でも絶やすとまずいものだ。なんとかなってよかった。


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