神聖円卓領域キャメロットII−5
険しい山道と峠道をいくつか超えて、山岳地帯のかなり奥まで来たところで、ようやく東の村と呼ばれる村に辿り着いた。
といっても、まだ村の入り口とのことで、肝心の村はまったく見えない。本当に入り口なのか、なんなら村自体が存在するのかすら疑わしいほどに、険しい山道でしかなかった。
なんとか日が沈む前にここまで到着したが、そこに現れたのはアサシンのサーヴァント、呪腕のハサンという山の翁の一人だった。男性のようで、百貌のハサンよりはまだ話の通じる相手だ。
しかし、難民たちも執り成してはくれたのだが、やはり聖都の騎士という見た目もあいまって、そのまま通してもらうわけにはいかず、戦闘となる。
マシュの峰打ちによって戦闘不能まで追い込むと、肋をやられたのか、激しく咳き込みつつ、それでも立ち上がった。
「げほっ…この呪腕のハサンをここまで追い込むとは、敵ながら見事…!だが全身の骨が折れようと倒れるわけには…!」
まだ戦闘意欲はあるようだが、どう見ても戦闘を続行できるような様子ではない。むしろこちらが心配になっていると、そこに新たな声がかけられた。
「おいおい、普通全身の骨やって立てるやつなんていないぜ。そこまでの献身を、あんたらの神様も望んじゃいねぇだろう。勝負はついた、お前さんの心情も分かるが、ここはもう認めるべきじゃないのか?呪腕殿」
なんと、現れたのはアーラシュだった。いや、地域を考えれば納得ではあるが、ゾロアスター教の戦士まで召喚されるとは。
アーラシュが説得を試みるも、それでも呪腕のハサンは「しかしですな…」と踏ん切りがつかなさそうにしている。
なんとか円卓の騎士ではないことだけは信じてもらえたようだが、それでも村に入れるか迷っているようだった。それを見て、ルシュドが声をかける。
「この人たちは僕らを助けてくれたんだよ、ドクロのおじちゃん」
「なんと、ルシュドではないか!母親は、サリアはどうした」
「はぐれちゃった。お母さんはこっちにはいないんだって」
「っ、お前たち、それは…」
ルシュドは一度この村に来たことがあると道中に言っていた。呪腕のハサンとも面識があったようで、母親の姿がないことに、呪腕のハサンはこちらを見遣る。
言葉を継げないこちらを見て、一つ息をついて、呪腕のハサンは「世話をかけたな」とだけ言った。
ルシュドの母親はもともとこの村の出身で、あとから聖地の家に嫁いだらしい。さらに、この呪腕のハサンはこの時代にこの地域で生きていたハサンだったらしく、改めてこの現実を見せつけられたことで、その声音に苦しさをありありと滲ませていた。
「…よかろう。恩には礼で返さねば。村に入ることは許そう。アーラシュ殿、案内をお頼み申す」
「あぁ、了解した」
呪腕のハサンは先に村に戻り、難民たち50人あまりの寝泊まりする場所を確保しに向かった。その間に、村への案内はアーラシュが請け負ってくれるらしい。こちらに改めて向き直り、いつもと同じ、人好きのする快活な笑顔を向ける。
「待たせたな。俺はアーラシュ、見ての通りアーチャーのサーヴァントだ」
「俺は藤丸立香、こっちはマシュ、ベディヴィエール。そんでこっちは…」
「雨宮唯斗だ」
恐らく特異点に召喚されたのであればカルデアと記憶は共有していないだろう、と思って自己紹介をする。
握手をしながら挨拶をすると、アーラシュは目をぱちぱちとさせてから、ニカリと笑う。
「なるほどな、うん、初めて会った気がしなかったんだが、そういうことか。もう縁があったんだな」
「分かるもんだな」
「そりゃあな。ま、その辺のことはあとで詳しく話そうや」
千里眼を持っているということもあるのだろうが、一瞬でアーラシュはある程度理解したらしい。とりあえず、敵対しないサーヴァントであってくれて良かった。
そう思いながら、日の暮れる山道を、村へと向かって歩き出した。