神聖円卓領域キャメロットII−9
「たとえ相手が仕掛けてきた戦争でも、正当防衛までしかジハード宣言なしにやってはいけないし、相手が始めた戦争でも相手の信仰を奪ってはいけない。なんなら、相手が攻め込んできても、和平を第一にしなきゃいけないし、剣より先にペンと言葉を取らなきゃいけない。ある意味、戦いを避けるための努力もまたジハードなんだ」
「じゃあ…十字軍のしてることって……」
「それはキリスト教の価値観だから、一方的に悪ってもんじゃない。十字軍の戦争を含め、度重なる戦乱の末に、ユダヤとキリストとイスラームはお互いの距離の取り方を学んでいったし、それが中東の歴史でもある。だからこそ、獅子王と戦わなきゃいけないんだ」
イスラームという言葉が「平和」を意味する語根から構成される言葉であるように、基本的にその宗教としての性質は、争いごとを穏便に済ませる砂漠の民の生き方そのものだ。一方、砂漠だからこそ異民族・異教徒との戦いが続き、歴史が平和を許さなかった。
だからといって、ユダヤ教やキリスト教が野蛮な考え方というわけではない。これは、単純な善悪で語られるものではないのだ。
それを、一方的に聖抜なる方法で選別する獅子王のやり方は、中東に生きる人々のその在り方と歴史、文化をすべて否定するものだった。
「雨宮殿、といったな」
「あぁ」
「現代に生きる貴殿から、我らの価値観と歴史への敬意を示してくれたこと、大変うれしく思う。現代でも残念ながら争いは消えてはいないのだろうが、少なくとも今、この世界で起きていることだけは決して許容するわけにはいかぬのだ。なれば、我らとしても貴殿らの力をお借りしたい。だが、けじめもまた必要なのだ」
「肉体言語も言語のうちだしな」
「そこまでは言っていないのだが…まぁ、お付き合いいただけるか」
「だってよ立香」
「うん、やろう」
率いる立場というものがハサンにもある。こればかりは仕方のないことだ。
ちょうど、カルデアからサーヴァントを呼び出せるようになってから一度も対サーヴァント戦をしていないこともある。肩慣らしという意味でも、戦うべき場面だろう。
そうして呪腕のハサンとアーラシュに対して、ベディヴィエール、マシュ、そして立香が呼びだしたキャスターのクー・フーリンと唯斗が呼び出したディルムッドによって戦いが行われ、つつがなくこちらが勝利した。
ちなみに、ディルムッドには「何かあったのかと気が気でありませんでした」と言われてしまった。今回は特にターミナルポイントを設置するまでに時間がかかってしまったからだ。
どうやら、特異点にレイシフトして二日間音声通信ができなかったことに端を発し、相次ぐ強敵や異常事態を管制室で見ていた心配性サーヴァントたちから話が広まっているらしい。
もともと、特異点探索中のカルデアのサーヴァントたちは普段通り思い思いに過ごしているが、電力節約のために霊体化していることも多い。また、管制室では特に霊体化してスタッフの気が散らないようにしているそうだ。
心配性のサーヴァントたちは霊体化して管制室で様子を見守っているが、今回は出だしからイレギュラーが多かったため、普段はいつも通り過ごしているサーヴァントすらも気を焼いて様子をちょくちょく見に来ているとのことだ。
通信を意図的に切らない限り、こちらの会話は管制室に筒抜けであるため、アーラシュとの会話など、複数人に聞かれるには少し気恥ずかしいような感じもするが、ほかの特異点でもそれなりに聞かれるには恥ずかしい会話をした気がするので、もう考えないようにしている。