神聖円卓領域キャメロットII−10
戦いも終わり、改めて呪腕のハサンたちと共闘する運びになってすぐのことだった。
戦闘終了の心地よい疲労感の中、突然、見張り役が大声で敵襲を告げたのだ。それはこの村に対するものではなく、離れた西の村が敵襲の狼煙を挙げているという報告だった。
「敵の旗は見えぬかアーラシュ殿!」
慌てて呪腕のハサンがアーラシュに声をかける。すでにアーラシュは千里眼によって西の村に意識を向けており、鋭い瞳をきつくする。
「赤い竜と、その首を絶つ稲妻の模様だ、見覚えはあるか」
赤い竜とは「ペンドラゴン」そのもの。その首を絶つ紋章を使う者など一人しかいない。
「遊撃騎士モードレッド…!まずい、皆殺しにされてしまう…!」
それはモードレッドの旗。どうやら、モードレッドも敵側の円卓の騎士であるらしい。
狼煙の色は黒、敵襲が間近であるという意味だが、村に入られてしまえばあとは一瞬だ。第四特異点で出会ったモードレッドの強さを鑑みれば、一般人の集落など一たまりもない。
しかし、ハサンの言葉ではここから西の村まで急いでも二日かかるらしい。西の村を守護するのは百貌のハサンであるそうだが、持たせることができても半日だという。
「こっちに逃げてもらうとかは?」
「備蓄が足りません、共倒れになってしまいます。西の村は守らねば」
立香は西の村の民をこちらに呼ぶことを提案するが、ベディヴィエールの推察通り、この村もそれだけの余裕はないだろう。飢餓で全滅してしまう。
まさに八方塞がりな状況に、マシュは視線を落とす。
「こんなとき、ダ・ヴィンチちゃんがいれば…空を飛ぼうなんて言ってくれるのですが…」
「お、それだ」
「は?」
アーラシュはなるほど、と手を打った。いったい何をひらめいたというのか、ベディヴィエールもさすがに怪訝な声を出す。
「いやぁ、一度だけ、かつ片道ってんなら一気に移動できるぞ、空を飛んでな。ただしリスクは伴うぞ」
「やるよ」
立香は即決だった。リスクの有無など関係ない、助けられるなら助ける。シンプルな強さだ。
「よし、ならメンバーを決めるぞ。俺は当然として、マスター、藤丸とマシュ、騎士の兄さんはどうする」
「お気遣い感謝します。ですが無用です。私は獅子王の騎士ではありませんから」
「よく言った。よし、移動するぞ」
そう言ってアーラシュについていき、村よりもさらに高い尾根へと進む。そこには、家の屋根を粘土で補強した板のようなものがあった。
取っ手がついており、足を入れ込めるくぼみもある。四つん這いになって体を固定するのにちょうどいい。
嫌な予感がした唯斗だったが、そもそも定員オーバーであることに気づく。
「アーラシュ、これに乗るんだな。でも一人余るよな」
「…確かにな。抱える…にはちときついか」
「あー…俺、アキレウス呼ぶから大丈夫だ」
そういえばそもそも唯斗にはアキレウスがいる。
立香もマリーやブーディカの力を借りられるかもしれないが、しかし速度が出ない。アキレウスは速度においてはそれこそ申し分ないだろう。
アキレウスとは、第五特異点から帰還してからというもの、パスを強化してより長時間召喚できるように訓練してきたこともある。
「アキレウスの馬車はアキレウスを入れて三人が限界だから、俺と俺を支えるサーヴァント呼んで対応する。立香たちのことはアーラシュに任せた」
「分かった。マシュ、しっかり藤丸を支えてろよ、時速300キロ以上は出るからな」
「あの…まさか…」
マシュとベディヴィエールも信じられないという面持ちでいる。時速300キロと言えば新幹線の速度だ。
板に乗せられた立香、マシュ、ベディヴィエールの後ろで、アーラシュは太い紐を巨大な弓に括り付けている。