神聖円卓領域キャメロットII−14
立香たちが砦に向かった後、アーラシュはとりあえず周辺の哨戒がてら狩りをしてくると言って集落の外に出た。
残った唯斗は、村人の中でも元気そうな男性に話を聞き、体調に優れない者がいる家だけに絞ってサンソンと回ることにする。
「サンソン、」
「はい、ここに。戦闘、ではないのですね」
「この集落の中で、体調が悪い人がいる世帯だけ回ることにした」
「頭目から信頼を得るためというのは管制室で聞いていました。早速向かいましょう」
管制室で霊体化して様子を見ている心配性サーヴァントとは、唯斗のサーヴァントで言えばサンソンとディルムッドだ。エミヤも食堂の手が空くと管制室に来ているらしい。そのため、状況は共有するまでもなかった。
いくつかの家を巡って、女性や老人など体調を確認して回るが、やはり栄養失調が根幹にあるようだった。免疫が下がっているため清潔な水でないと体調を崩しやすくなっているのだ。
サンソンはそれぞれに免疫力を高めるための治癒魔術を施していくが、これは生活を改善させなければ抜本的な解決にはならない。
唯斗も水を錬成して水がめに貯めておき、後ほど他の家庭にも配っていこうと考える。
15分ほどすれば、回る予定の世帯すべてで用事を済ませることができた。どの家もなんとかもてなそうとしてくれたが、サンソンの現界を維持する時間を長引かせられないため丁重に断る。
そうして、集落の人目につかない木陰でサンソンを下がらせようとしたときだった。
「マスター」
「ん?」
「アーサー王がいないというのは、心細くはありませんか。異例なこと尽くめの特異点です、無意識にストレスが蓄積されているのではないでしょうか」
どうやらサンソンは唯斗のことも様子を窺っていたらしい。確かに、それは100%そうではないとは言えない。
「否定はしない。けど、耐えられないもんじゃない」
「せめて通信でお話しするくらいなら…」
「カルデアと特異点の通信は、時空間の回線は1本しかないんだ。俺が私的に通信したら、それに占有されることになる」
「…そうですね、すみません、マスターが一番分かっていたことをお聞きしてしまいました」
「いや、ありがとう。そうやって気に掛けてもらえるだけで嬉しい」
そう言って、唯斗は軽くサンソンの肩に目元をくっつけるようにして頭を預けた。ごく軽く寄りかかるようなそれを見て、サンソンは微笑んで唯斗の後頭部を優しく撫でる。
こうして少しあからさまにすることも、心配性な彼らを安心させるために必要なのだろうと思ってのことだったが、それは自分に対する言い訳なのかもしれない。
「…よし、悪いなサンソン、もう大丈夫だ」
「僕はあなたの刃です。いつでも呼んでくださいね」
サンソンがカルデアに戻り、枯れた木々の間を風が吹き抜ける。途端に一人になったことが知覚されて、思わず息を詰める。
なんだか肌寒く感じて、ひとまずベディヴィエールの様子を見に行こうと、足早に誰もいない林を出た。
ベディヴィエールが休んでいる、空き家になった住居の寝室に入ると、ベッドの上で横になるベディヴィエールの銀髪が目につく。苦しそうにしているが、眠ってはいた。
「申し訳…ありません、我が、王よ…!」
魘されているにしてははっきりとした声だ。
そこでふと気づく。サーヴァントは、眠る必要はないし夢も見ない。睡眠という形を取るほど衰弱しているのだろうか。
心配になってそばに近寄り、右腕の側へと回る。せめて外傷の治癒だけでも、と、どうやらアガートラムを発動する度に焼けているらしい右腕を確認しようとした。
しかし、目に魔術で強化をかけて義手と肉との接地面を見ようとすると、見慣れたエーテル体ではないように感じられた。
パッと見では人間の腕だ。隻腕ではあるものの、何の変哲もない人間の肉。しかし、本来サーヴァントはそう見えていてもそれはエーテルによって構成されたものだ。だから、エーテルをあるべき場所に編みなおすようにして治癒を展開するのがサーヴァントに対する治癒術式だ。
人間に対する治癒は細胞組織の回復によるものだが、これはどちらとも違う。
「……なんだ、これ………」
唯斗は目の前のものが信じられず、思わず体を離してしまう。
すると、気配に気づいたのか、ベディヴィエールが目を覚ました。うっすらと目を開けて、唯斗が控えていることを視認する。
「…雨宮、殿…申し訳ありません、情けないところを、お見せしてしまいました」
ベディヴィエールはなんとかベッドの上で上体を起こす。慌てて止めようとしたがベディヴィエールが制する。さすがに、横になったまま話そうという気にはならなかったのだろう。
「藤丸殿は…」
「…立香とマシュは、ハサンたちと一緒に、捕えられたハサンを助けに行くために砦に向かった。俺とアーラシュは西の村に残って、村の最低限の防衛とか、食料調達とかにあたってる」
「そう、ですか…」
戦力になれなかったと分かって、ベディヴィエールは視線を落とす。唯斗は切り出そうかどうか迷ったが、この特異点において、リスクはなるべく減らしたい。
そこで、いったん通信を切ってこちらの会話が管制室に届かないようにした。