神聖円卓領域キャメロットII−15
「ベディヴィエール、今、通信を切った」
「?いかがしましたか」
「…その、怪我だけでも治そうと思って、あんたの右腕を見せてもらったんだけど…サーヴァントとも人間とも違う、いや、どちらでもあるって方が近いか。とにかく、正直得体の知れない様子だった」
「っ、」
息を飲んだベディヴィエールに、唯斗は通信を切っておいて正解だったと思った。これは極めて核心に触れてしまうような類のものだ。
「多分、通常なら誰が見てもサーヴァントにしか見えないと思う。俺がさっき見てても、常に目まぐるしく見え方が変わってたから。今は、急速に安定しつつあるように見える」
「そこまで、分かるのですね」
「直接間近で見たからだ。なおかつ、あんたが夢を見て精神的に不安定になってたから、術式も不安定になってたんだろうな。霊基がモザイク状っていうカルデアの観測もあったし。とにかく、このアガートラムの高度なつくりを見ればあんたがマーリンの力を借りてるってのは信用できる。そのうえで、これもマーリンによる術式だろ」
基本的にはサーヴァントに見えるようになっているようだが、アガートラムの使用による負傷と精神的に不安定になっていたことが重なり、術式に対するベディヴィエール自身の魔力出力が不安定化していたのだろう。
現に、すでにもうエーテル体に見えている。ベディヴィエールが目覚めたからだ。エーテル体に見えるような術式がかけられているということは、それはまるで、もともと人間の体であったかのようだ。ゴーレムにサーヴァント的な見た目を投影しているような。
あるいは、本当に人間であるような。
いや、それはありえない。5世紀の人間だとすれば、この特異点時点ですら800年以上が経過していることになるし、サーヴァントという観点なら現代を起点とするため1600年近く生きていることになる。
「あんたが何であるかは、言わなくていい。それは、知るべきときがあるタイプのことだろ」
「……、」
「純粋なサーヴァントではない、それだけ分かればいい。それをもたらしているのがマーリンの魔術ってことも」
「…ええ、その通りです。私は、他のサーヴァントとは異なります。それは、マーリンの術式によるものです。あなたがお望みとあらば、すべてお話しすることもできますが」
ベディヴィエールはまっすぐにこちらを見つめていった。並々ならぬ覚悟が窺える。これは、ベディヴィエールなりの唯斗への信頼でもあるのだろう。
「雨宮殿、あなたは信頼できる方だ。もちろん、藤丸殿もレディ・マシュも。あなたは特に、聡明で誠実です。きっとあなたに明かす分には、マーリンも気にしないでしょう」
「…いや、いい。確かに、聞いておいた方がもっと心から信頼できるんだろう。でも俺は、知らないままでも、あんたを信じる。そう覚悟決めてやる。だから、あんたも、獅子王を倒すという目的を果たすまで、何があっても一緒に戦ってくれ」
宝具を使う度に、肉を焼かれるという地獄のような目に遭う。それでもベディヴィエールは、唯斗たちのために正門で、この村のためにモードレッドに対して宝具を使用した。それだけで、信用するに足る相手だ。それならば、それ以上は求めない。
「……ありがとうございます。雨宮殿も藤丸殿も、まさに人理の救い手に相応しい方たちだ」
「褒めすぎだろ。そろそろ通信戻すからな」
「はい、本当にありがとうございます」
ふっと微笑んだベディヴィエールに、少しでも疑いを向けたことに罪悪感を感じる。
それなら、別に秘密でもなんでもないが、ひとつだけ明かしてやることにした。
「あ、そうだ。俺のサーヴァントには、異世界のアーサー王もいるんだ。正真正銘、男性だけど」
「……へ、」
「よし、通信回復」
「えええええ!?!?」
『うわわわわ!どうしたんだいベディヴィエール卿!?』
「悪いなロマニ、ちょっと通信が乱れてた。ベディヴィエールは無事に目を覚ましたぞ」
『無事そうな感じじゃなかったけど!?まぁバイタルは確かに正常値に近いけれど』
「安静にしとけば大丈夫だろ。俺は引き続き村人に水配ってくるから、立香のこと頼む」
通信が途切れていたことはそれで流して、会話を終える。いまだ驚きの表情を浮かべているベディヴィエールに苦笑してから、唯斗は言葉通り、各家庭を回って水を錬成しに行くことにした。