神聖円卓領域キャメロットII−16


翌日より、立香たちは荒野に出て砦への本格的な行路に入った。唯斗とアーラシュは変わらず村の警護と狩りにあたっている。

通信で様子はうかがっていたが、やはり立香はさすがの引きの良さを発揮し、怪物に教われていた三蔵法師こと玄奘三蔵と出会う。
三蔵もちょうど一緒にいたサーヴァントが砦にいるとのことだったため、立香たちに合流して砦を目指し、夜には砦に入った。アグラヴェインと会敵したとの通信を聞いて肝を冷やしたが、無事に救出した静謐のハサンという山の翁によって脱出に成功。百貌のハサンからの信頼も得て、三蔵の同行サーヴァントだった俵藤太とも合流し、翌日に帰還した。

敵戦力を削ることこそなかったものの、アグラヴェインを敗走させて合計3騎のサーヴァントも仲間に加えたのだ、極めて良好な結果である。

そして、その夜には藤太の宝具によって、無限に湧き出る米で村人たちは久方ぶりのまともな食事にありつくことができたのだった。
お調子者めいた言動ではあるが、三蔵の言う御仏の加護とはまさにこのことなのかもしれない。

唐代の中国の高僧であった三蔵は、仏典の原典を求めてインドへと向かい、往路はシルクロードを通って陸路で、復路は海を渡って東南アジアから海路で旅をした。
この旅がもたらした功績は大きく二つ、一つは大量の仏典を持ち帰ったことで、かつて誤って翻訳されたものが最新の翻訳に改められ中国と日本の仏教を向上させたこと。もう一つは、シルクロードの国々と東南アジアの国々の様子を西域記に著して、当時のユーラシア東半の世界を現代に伝えたことだ。

一方、俵藤太は藤原秀郷という実在した日本の人物であり、平将門の乱において平将門を討ったとされる人物だ。その武勇は既存の伝説を上書きする形で大百足退治の伝説に昇華され、この百足退治によって得た大蛇の一族から得た報酬が無限に湧き出る米俵などの宝具である。

三蔵はキャスター、藤太はアーチャーであり、こちらの勢力のサーヴァントはマシュやベディヴィエールも入れて8騎となった。

飲めや歌えやの宴会があった翌日、今後の方針を決める際にも戦力差が議題に上がり、このサーヴァントの数ですら聖都攻略は厳しいというカルデアの結論を、誰も反論することができなかった。それにまだ、エジプト領のオジマンディアスのことも解決していない。

この状態での聖都攻略を渋るロマニに対して、ハサンたちは悩んだ末に、アズライール廟に眠るという初代ハサンを頼る方向で検討を進め、一度カルデア一行と呪腕のハサンは東の村に戻ることになったのだった。



百貌のハサンとは西の村で別れてから二日後、東の村に着いて、まずは藤太によって大量の米を村人たちに与えたところで、アズライール廟に全員で向かって初代ハサン・サッバーハに謁見するという方向で話がまとまった。
ただ、唯斗は今回も村に残る方が良さそうだ、ということで落ち着いており、向かうのは立香たち一行だ。誰かが村の様子を見張っていなければならない。特に、まるまる一週間開けてしまったことで村人たちの不安も高まっている。

そうして村の入り口に向かい、哨戒していたアーラシュに今後のことを伝える。


「なるほど、話は分かった。俺もその廟には興味があるが、今回も居残りだな。誰かが民を守らなきゃならんからな」

「俺も残るから、俺とアーラシュで村は見てる」

「…いや、マスターも今回は廟に行ってきたらどうだ。お前さん、好きだろう。こういうの」


するとアーラシュはそんなことを言ってきた。笑顔で行ってきていいぞ、なんて言っているが、これは何か視たな、と推測する。しかしそれを他のメンバーに悟られるわけにもいかない。そこまではアーラシュの意図するところではないし、もしも唯斗がダイレクトに死ぬような未来を見たのであればもっと強く言うはずだ。一度食い下がってみよう、と唯斗はいつも通りに口を開く。


「さすがにこんなときに趣味優先しない。炊き出しの手伝いもあるし、水の貯蓄もそろそろ足した方がいい」

「……ま、それもそうだな。じゃあ今回もよろしく頼むぜマスター」


アーラシュはにっこりと笑って、それで受け入れた。それでも問題はないということだろう。
こうして、特に怪しまれることもないまま、立香たちは呪腕のハサンとともに山の奥地へと向かっていった。

遠ざかったところで、アーラシュに頭をガシガシと撫でられる。


「うわ、」

「ありがとな、マスター。心配はするな、絶対守る」

「…足手まといにはならないように努める。だから、俺も戦うぞ」

「……あぁ、よろしくな」


乱雑な撫で方は、いつの間にか優しいものに変わっていた。


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