神聖円卓領域キャメロットII−17
立香たちが出立した翌日、アズライール廟に到着して初代ハサンと邂逅したところまでは、通信で状況を確認していた。特に口を挟むことはしなかったが、ロマニが観測した霊基に驚愕したところで通信が途切れた。
立香たちの音声が聞こえなくなり、さすがに唯斗は焦る。
「おいロマニ、様子はどうなってる」
『分からない。音声と映像だけ届かないけど、データは観測できてる。立香君たちは無事だよ』
「そうか…つか、さっきとんでもないこと言いかけてたよな」
『あぁ、この霊基はほとんどグランドクラスのそれと言って差し支えないだろう。まぁ、これは別に立香君たちに伝えなくてもいいか。伝えない方がいいかもしれない、というか伝えるなって意味だったのかもしれないし』
グランドクラス、通常サーヴァントより上位互換の霊基で召喚される英霊で、各クラスのグランドが集まることで人類悪と戦うことになっているとされる。
この召喚儀式を下位互換したものがカルデアや聖杯戦争の召喚だ。
さすが、暗殺によって広大なイランを支配し国家を建造しただけある史上最強のアサシンである。確かにハサン・サッバーハであれば、グランドクラスとしての召喚も頷ける。
しかしそれは同時に、今起きている事態に対して抑止力がグランドクラスを必要とした、とも言いかえることができる。
獅子王の規格外れの力もそうだが、この特異点はそれだけ人理をすでに崩壊させつつある事象ということだ。
しばらくして、通信が復旧したころには話がついていたようで、立香たちは霊廟を出たあとだった。
ハサンと話したところによると、まずはエジプト領にあるアトラス院に行け、とのことだった。アトラス院といえば、時計塔、彷徨海と並ぶ三大魔術組織である。
時計塔は西暦以降の魔術を、彷徨海は西暦以前の魔術を研究する組織であるのに対して、アトラス院は特にそういったことはなく、命題としては人類にいずれ来る悪い未来を避けるための研究が行われる。それなのに、アトラス院には人類を七回滅ぼせると言われるほどの、研究によって生まれたとんでもない兵器が山とあるらしい。
また、カルデアにトリスメギストスを提供した組織でもある。
最初にエジプト領に入ったときにダ・ヴィンチが観測した謎の空間はアトラス院のことだったのだろう。
とりあえずは全員無事に帰ってこられるそうなので、下り道ということで早ければ一日ほどで村に戻ってくるはずだ。
あてがわれていた部屋でじっくりと通信に耳を傾けるのをやめて、そろそろ水を錬成して回ろうと建物を出る。
通信をする前にサンソンとこの村でも簡単な診察をしていたため、水を配って歩くのはこれからだ。
たらふく食べて血色の良くなった人々を巡るとどうしても会話が長引いてしまい、全ての家を回ったころには夕方になっていた。そろそろアーラシュと狩りに出るべき時間だ。
普段、狩りに出る前に待ち合わせ場所としている村の入り口までやってくると、アーラシュが鋭い目つきで山麓を見据えていた。嫌な予感がして、そっと隣に立って目に強化魔術をかける。
「…、多いな…」
「マスター、避難用の洞窟の場所は覚えてるな」
「誘導を始める。監視は頼んだ。カルデアにも連絡しておく」
「あぁ」
ついに来てしまった。よりにもよって戦力の薄い今、聖都の騎士たちがこちらに進軍している。どうやってこの村の場所を見つけたのかは不明だが、まだこちらに地の利がある。
高所を陣取っているため、監視と先手はこちらに有利だ。
唯斗は村に戻りながら、急いで通信に呼びかける。
「こちら雨宮、聖都の粛清騎士の隊列が村に接近中。日が沈むころにはアーラシュが会敵するはずだ」
『なんだって!?』
『マジか…ハサン、どうする!?』
慌てたロマニと立香の声の向こうで、呪腕のハサンの声が近くなる。
『雨宮殿、どの程度持ちこたえられそうか』
「…粛清騎士だけならなんとかなる。でも円卓の騎士がいたら、たぶん立香たちが到着するころには…ハサン、そこから先行してどれくらいで着く」
『太陽が完全に沈む頃には到着できまする。それまでなんとか…!』
「少なくとも、洞窟だけは死守する。これでもアルジュナの攻撃を自力で凌いだくらいの結界は張れるんだ」
『かたじけない。静謐、藤丸殿たちの案内は頼んだ』
『唯斗、気をつけて』
呪腕のハサンは先行して下山してくるようだ。立香の真剣な声に、「分かった」とだけ返す。
もし円卓の騎士が現れたらどうなってしまうのか。先ほどは虚勢を張ったが、アルジュナの攻撃を凌いだあの結界は持続するものではない。防げて一撃だ。
たとえこれを最終決戦としてでも、総力を挙げて戦い抜くしかないだろう。