神聖円卓領域キャメロットII−19


「……なに?」


エミヤの腕から降りて、唯斗はランスロットを睨みつける。3人ほどが血を流して絶命しており、ランスロットはこちらを怪訝に見る。突然現れたアジア系の顔立ちの人間にフランス語で罵倒されたのだ、怒りより先に疑問が浮かぶだろう。

そしてそういうことを考えられるくらいには、唯斗の頭は冷静さを取り戻していた。相手はギフトのあるランスロットだ、隙は見せられない。


「あぁ…なるほど。異邦のマスターの一人か。サーヴァントを連れているが、もう一人はいないのだな。それにしても出合い頭に言う言葉にしては品がない」

「あんたには不要だと判断しただけだ。東方の大英雄に正面から挑むこともできなかったやつを臆病者と評して何が悪い」


エミヤは両手にすでに剣を構えており、唯斗を守れる態勢になっている。隙のないこちらを見て、ランスロットは剣を構えて静かに唯斗を見据える。


「私を知っているようだな」

「カルデアにいるからな、ランスロットとトリスタンは。どちらも高尚な騎士だ。特にランスロットは…俺に、フランスの、故郷の美しさに気づかせてくれた」

「ほう」


片眉を上げるランスロット。言葉で動じるような相手ではないと理解している。時間稼ぎをする方が不利な状況だ。しかし同時に、ランスロットから背を向けることもできない。

いや、そんなことはどうでもよかった。他ならぬランスロットがこんなことをしているからこそ、許せなかった。


「ランスロットは誠実で実直で、でも人間臭さがある、そんな騎士だからフランスはあなたを愛した!俺はそんなあんたがいた国だからフランスを、世界を繋ごうと思った!無辜の民を殺し卑怯な方法で英雄に手をかけたお前はもはや、フランスの英霊なんかじゃねぇ!!恥を知れ臆病者が!!」


唯斗がそう叫ぶと、ランスロットは一度目を見開いてから、しかしすぐに剣を構えて魔力を漲らせる。さすがにすぐに宝具は放てないようだが、それなりに強度のある斬撃が来る。


鉄の人よ、(ドント フアラン)

「ならばここでお別れだ」

天より来たれ(デン ガント ネヴ)


そしてランスロットがすさまじい斬撃を放ち、鎌鼬のような魔力の衝撃波がこちらに迫った瞬間、強固な結界が唯斗たちの前に現れて攻撃を防いだ。


「エミヤ攻撃!アキレウス!」


エミヤは結界の上を飛び越えて、結界に驚くランスロットを上から射撃した。
一方、瞬時に呼び出したアキレウスは状況をすぐに理解すると、唯斗を抱えて村へと一気に走り出す。一瞬でランスロットとの戦闘を行っていた入り口から離れていた。


「助かった」

「当然だ。それよりマスター、村で戦闘が起きてる」

「やっぱ東から回ってきてたか…ディルムッドと入れ替える、いったん戻ってくれ」

「了解」


村ではすでに村人たちと騎士たちの戦闘が始まっていた。東の峠道から回り込まれていたらしい。
騎士たちはかがり火を家々に放ち、村を燃やし始めている。燃費の悪いアキレウスをいったん戻らせると、すぐにディルムッドを呼び出す。


「参上しました…これは、」

「相手はセイバーが多いから少し不利だけど…俺のランサーには関係ないな?」

「当然です。必ずお守りします、マスター」


ディルムッドは襲撃される村に表情を険しくしつつ、槍を構えて唯斗とともに村の中央へと向かう。走りながら、唯斗は念話で呼びかけた。


(エミヤ、大丈夫か)

(ランスロットは撤退した。どうやら深追いしないようだ)

(…トリスタン一人で十分と判断したのか、分からないけどまあいい。尾根の見張り台から遠距離攻撃に転じてくれ)

(承知した)


エミヤにはアーチャーとして遠距離攻撃に徹してもらい、唯斗のそばにはディルムッドが控えて近距離攻撃を行う。
すでに夕日はほぼ大地に隠れ、残り火のような微かなオレンジが山の稜線を浮かび上がらせており、そこに鎮座する見張り台からエミヤが射撃を開始した。


『トリスタンが村に入った、もうすぐ接敵する。ハサンももうじき到着する見込みだ。ランスロットは撤退したようだね…唯斗君、踏ん張りどころだ』

『唯斗!すぐ行くから!』


ロマニは冷静に戦況を俯瞰して伝えてくれている。立香も走っているのが分かる声だった。

それに、アーラシュもまだパスが繋がっているのが分かる。まだ死んでいない。
唯斗は戦力の補強のため、さらにギルガメッシュも呼び出した。


「ギルガメッシュ」

「…なんだ、これは」

「世界史の始まりの地に対する暴挙、許すわけにはいかない」

「………よかろう」


あちこちで火の手が上がり、悲鳴を上げて切り殺される村人が倒れる地獄絵図を見て、ギルガメッシュは顔をゆがめる。騎士を薙ぎ払ったディルムッドは唯斗のそばに戻り、前方からやってきたサーヴァントを睨みつける。


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