神聖円卓領域キャメロットII−20
「私は悲しい…母なるエールの文明にて神話である槍兵と、バビロニアの賢王と斯様な出会い方をしようとは」
「安心しろトリスタン、我が主と我らはすでに貴公とカルデアにて邂逅している。外道と化した貴様との出会いに、なんら感情を動かすことなどなかろう」
ディルムッドがこうも厳しい言葉を述べることも珍しい。それほどまでに、ディルムッド自身、この惨状に怒りを覚えているようだった。
「馬小屋の島の騎士風情が、人類文明揺籃の地たるこの場所でなんたる狼藉か。我自ら始末してくれよう」
ギルガメッシュすら吐き捨てるが、トリスタンは顔色一つ変えない。円卓でも最強を競うような武勇の騎士だ、何を言われようと感情を揺さぶられるそぶりはなかった。
「ええ、ええ、あなたたちの仰ることもよくわかります。しかしもう過ぎたこと。過去の遺物よ、そこのマスターとともに早く退場なされよ」
そして閉じているように見える目を開き、妖弦が美しくも残酷な音を響かせる。途端にあらゆるものを切り裂く風が吹きつけてきて、ギルガメッシュの結界によって唯斗は守られる。
一方、ディルムッドは飛び上がって避けるとトリスタンに目にも止まらぬ速さで二本の槍を突き出した。
そこからは、ディルムッドとトリスタンによる一進一退の攻防に、エミヤの援護射撃、そしてギルガメッシュによる唯斗の防護とトリスタンへの攻撃が行われた。さすがにサーヴァント3騎が相手ともなると苦戦しており、トリスタンはこちらに致命傷を与えられない。
しかしトリスタンは攻撃を食らっても瞬時に回復してしまい、こちらも決め手に欠けた。
とはいえ、なんとか生き延びるという目標は達成できたようで、ハサン、続けて立香たちも村に到着した。一気に勢力が増えて、散らばっている騎士たちやトリスタンとの戦闘が行われる。
どうやらトリスタンは静謐を辿って村の場所を特定できたようだったが、今やこちらには唯斗のサーヴァント3騎と、マシュ、ベディヴィエール、三蔵、藤太、静謐、呪腕の6騎がいる。
これならなんとか、敗走させることくらいはできるのでは、と思っていたときだった。
「あぁ…時が来ました。見上げなさい、西の空を」
「あ、あれは…まさか、まさか…!」
トリスタンが示した西の空には、煌々と夜空を貫く光の柱が立ち上っていた。呪腕のハサンが声を震わせる。
(マスター!あれは、獅子王の裁き、というものではないのか!?)
(……たぶん、そうだ)
直後、轟音が山岳地帯に轟き、山々に反響して腹の奥底まで鳴り響く。あれは西の村があった方角だ。つまり、大地に巨大なクレーターを穿つあの破壊が、西の村を飲み込んだということである。
「これが獅子王の裁き。聖槍ロンゴミニアドによる浄化の光。言うまでもなく、次はこの村です。一切の痕跡なく浄化いたします」
平然と述べるトリスタンに、その友人であったはずのベディヴィエールは声を荒げる。
「卿…卿らは正気なのか!?あれが、あれがアーサー王の所業だと!?」
「無論!正気でなく粛清が許されるものか!ヒトを残さんがため、我が王は聖断された!彼の王はついに、人の心を捨てたのだ!」
正気でこのようなことができるほど、獅子王は人間としての心を捨て去った。トリスタンは今まで聞いたことのないような声音でそう告げた。
「…五分の後、この村にも裁きが下ります。さらばですベディヴィエール卿。もう会うこともないでしょう」
そう言い残し、トリスタンは霊体化して姿を消した。入れ替わるように粛清騎士たちが大量に現れ、追撃を許さない。
空からは刻々と光が迫る。聖槍ロンゴミニアド、アーサー王が使用したというエクスカリバーではないもう一つの聖なる武具。
アキレウスを頼れば、唯斗と立香、マシュは助かるだろう。しかし霊体化してもあの熱量では消失してしまうため、ほかのサーヴァントたちは全滅だ。ここで戦力が3人だけになるのは、それは敗北に等しい。
『撤退するんだ!』
「でも村の人たちは!?」
何よりも、ルシュドたち村人がまだ残っている。見捨てていくことなど、もう今の唯斗たちにはできなかった。
なんとか粛清騎士は薙ぎ払ったが、もう時間はない。
とりあえず、カルデアに撤退できるエミヤ、ディルムッド、ギルガメッシュには下がってもらう。ディルムッドは「どうかご無事で、もしものときはアキレウス殿を…!」と最後まで唯斗を心配しながら退去した。
「いや、どちらも無理だ。逃げるのも、助けるのもな」
そこに、聞き慣れた声がかけられた。全員が振り返ると、そこには血だらけのアーラシュが立っていた。この致命傷で谷底から這い上がってくるなど、それはもうサーヴァントとしてすら異常なほどの頑丈さだ。