神聖円卓領域キャメロットIII−1


一夜明け、村の火災もすべて収まった。
亡くなった者の弔いが行われている中、カルデア一行はアトラス院に急いだほうがいいということになり、ハサンたちとは別れて村を後にした。
次に彼らと会うときは、聖都攻略の直前、村の頭目たちによる作戦会議の日となる。それまでは、各地に散った現地の人々が伝令となって情報を伝え合う形になった。

そうして朝日の中、山を下りるために峠道を進んでいると、隣を歩く立香がこっそりと話しかけてきた。マシュや三蔵、藤太は何やら話しており、二人だけで少し後ろを歩いている形だ。


「唯斗」

「…ん?」

「…大丈夫?アーラシュのこと、見送ってくれたんだよね」


アーラシュの宝具によって獅子王の裁きを村は免れた。その代わり、アーラシュは消失してしまい、三蔵などはひどく悲しんでいた。
初めて宝具のことを知った立香やマシュが真っ先に心配したのは唯斗のことで、唯斗は「見送ってやれたから大丈夫だ」と返したのだ。

それでもなお、立香は心配してくれている。


「やっぱり少しくらい、アーサーと通信で話したり、一時的に召喚してみたりしてもいいんじゃない?この特異点に来てから、唯斗にばっかりしんどい思いさせてるし…ロマニも許可してくれるよ」

「しんどいのはみんな同じだ。俺だけそんな甘えるわけにいかないだろ。ていうか、そんな情けないとこ見せられない」


サンソン同様に立香もそう提案してくれたが、唯斗は首を横に振る。さすがにそんな甘ったれたことをするつもりはない。
今まで特異点でしんどい思いをしてきたのは立香だ。そして立香はそんなことをしなかった。それに、リソースだってタダではない。

何よりも、そんな情けないところを、アーサーに見られたくなかった。


「…そっか。唯斗がそう言うならいいけどさ…それにしても、戦闘でもアーサーのこと呼び出してないよね?」

「それは単純に、敵がセイバーばっかりだからだな。粛清騎士もクラスとしてはセイバーの性質だし、円卓の騎士もそうだ。トリスタンに至っては不利な相性だ」

「それもそうか」


これまで戦闘でアーサーを呼び出していないのは、この特異点にいる敵のほとんどがセイバーだからだ。そのため、基本的にはエミヤを頼っている。
オジマンディアスはそもそも同じ霊基で特異点にいるため呼び出せないし、アーラシュもそうだった。
そのほかのサーヴァントはそれぞれの特性が必要になったときに呼び出している。セイバーはどうしても攻撃特化だ、アーサーを呼び出すのは、相手がランサークラスの強敵であるときくらいだろう。

確かに戦闘にかこつけてであればアーサーと少しは会話できたかもしれないし、それは少し残念に思う。


『横やりのようで悪いんだが唯斗君、恐らく、アーラシュをそちらに召喚できないかもしれない』


すると、通信でロマニがそう言ってきた。会話を観測で聞いていたからだろう。普段はこうやってプライベートに近い会話のときに割り込むことはないが、重要なことのため話してくれている。


「一度死んだという事象が発生したから、それを狂わせることができない、それくらい特異点が揺らいでるって感じか」

『ご明察。こちらから物資を送ることすらできないほど、その特異点は人理から外れてしまっている。おそらく、その特異点で、サーヴァントとしてであっても「死」という事象を経験した場合、それを覆すことはもうできない。たとえ、サーヴァントというもともとその時空に存在し得ない情報体であったとしてもね』

「分かった。試すのもまずそうだな。アーラシュは呼び出せないってことでこれから動くことにする」


とはいえ、さすがに唯斗の心情としても、アーラシュを気軽に呼び出せるようなメンタルではないため、あまりその点は変わらない。

無性にカルデアのアーラシュに会いたくなってしまったが、唯斗は深呼吸をして埃っぽい峠道の空気を吸い込んで、それを誤魔化した。


290/460
prev next
back
表紙へ戻る