神聖円卓領域キャメロットIII−4


一瞬どうなるかと思ったが、落下しながら藤太が唯斗を支えてくれたおかげで、着地はスムーズだった。

思いのほか高さはあったが、地面は砂に覆われていることから、普通に落ちてもなんとかなったかもしれない。


「ありがとう、藤太。助かった」

「アーラシュ殿にお守りすると約束したからな」

「…そっか」


あの夜、あの一撃の間のことだけだと思っていたが、藤太は律儀にアーラシュの代わりに唯斗を守ってくれたらしい。

礼を言って、唯斗は目に魔術をかけて暗視にする。全員、この地下遺跡らしき場所に落ちてきており、怪我もなさそうだった。立香はマシュが受け止めている。


「みなさん、いらっしゃいますか?」


マシュの問いかけに全員が口々に返して、見えない怪我もなさそうだと分かる。

すると、そこに誰でもない男の声が加わった。


「それは結構。どうやら全員無事のようだね。けが人もなく何よりだ。では明かりをつけよう」



そんな言葉とともに、空間に一斉に燭台が灯り、揺らめく明かりに覆われる。唯斗は魔術を解いて普通の視界に戻り、明かりをつけた端正な顔立ちの男を見つけた。近代の英国紳士のような姿だ。


「やあ、こんにちは諸君。そしてようこそ、神秘遥かなアトラス院へ!私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、『明かす者』の代表、君たちを真相に導く、まさに最後のカギというわけだ!」




突如として現れたホームズは、アトラス院の中枢へと案内してくれるという。
マシュは本物のホームズに会えて喜びもひとしおといった感じだが、立香ですら少しだけ戸惑っているようだった。
利害が一致しているため同行することを選んだが、立香も誰でも彼でも信じるわけではない。特にホームズの胡散臭さは、ベディヴィエールが「マーリンのようだ」と述べるくらいであるため、さすがの立香も手放しに信じられない様子だ。

ホームズは恐らく幻霊、実在しない英霊のはずである。それこそ第四特異点に多く現れた幻霊たちと同じである。そして、そのロンドンにおいてバベッジに依頼され、ホームズは魔術王による人理焼却の捜査をすることになったそうだ。
彼にとって人理焼却とは、史上最悪の霊長類の根底からの殺人事件であるらしく、だからこそ召喚されたのだと語る。

ホームズはもしかしたら実在した人物なのかもしれないが、いずれにせよ英霊たらしめているのはドイルによる小説であるため、今は幻霊扱いで良さそうだ。

アトラス院について立香にレクチャーしているホームズを見ながら、唯斗は内心でそこまで結論を出す。本当は、なぜ第四特異点で現れたらしきホームズがここにいるのか、記憶を引き継いでいるのかという疑問があるし、マシュにクラスはキャスターだろうと言われながら肯定しなかった理由などはっきりさせたい点はいくつかあった。

ただ、そこまで踏み込んでも答えてもらえない確証があるのも確かだった。あくまでホームズは協力するが仲間にならないという姿勢で、現時点では少なくとも、このアトラス院での行動のみを共にする関係だ。そのため、踏み込んだ質問には答えないだろう。

そうして会話には加わらず、たまに防衛機構を撃破しながら進んでいくと、ホームズが戦いで得た所感をマシュに尋ねた。


「ところでミス・キリエライト、君は宝具をうまく使えていないね?それはなぜかな?君の手に余るものだと?」

「いえ…私はまだ、力を譲渡してくれた英霊の真名を知らないのです……」

「それは違う。真名はそう大した問題ではない。君はただ、踏み出す足を間違えているだけだ。それもじきに分かるだろう」


意外なホームズの回答に目を丸くしたマシュだったが、通路の前方に明かりが見えてくる。いよいよ中枢に辿り着いたらしい。


「喜びたまえ諸君、じきに中枢に到着する。そこですべての答えが明らかになるだろう」


そこに、警報音がけたたましく鳴り響いた。中枢に近づく者への、最後の防衛機構だ。敵性反応が迫る中、ホームズは悠然と立香たちの方を振り返る。


「そうだ、その前に忠告しておこう。私が諸君らの前に現れた最大の理由は、ここにはカルデアの目が届かないことにある。事前に言っておくとだね、私は、ドクター・ロマンを信用していない」

「…え!?それってどういう…」

「さぁさぁ、まずは戦闘だ。それにもじきに答えを出そう」


とんでもないことを言っておきながらホームズは愉快そうに笑う。なるほど確かに、マーリンのようだと述べたベディヴィエールも分かる。たった一瞬だけだったが、夢に現れたマーリンに近しいものを感じた。


293/460
prev next
back
表紙へ戻る