神聖円卓領域キャメロットIII−7
臆面もなく二人がまっすぐにそう言うものだから、唯斗は言葉に詰まってしまう。確かに今は、唯斗とて立香に考え方の影響を受けているが、あのときはそうではなかった。現に、その後の第一特異点から第三特異点まではよく衝突していたものだ。
「俺は、別に、お前らみたいな根っからの善人じゃねぇし、そんな改まって礼なんて…ギャラハッドのことはそうかもしれないけど、俺はそんな優しい人間じゃ、」
「唯斗は優しいよ」
「唯斗さんは優しい人です」
唯斗の言葉が終わる前に、食い気味に二人はそう言った。そして揃って立ち上がると、いよいよ二の句が継げなくなっている唯斗の手を、それぞれ片手ずつとった。
「唯斗は最初から、ずっと優しかったよ。いつも俺たちのこと気にかけてくれてた。確かにちょっと不器用だしコミュ障だけど、そういうところも含めて大好きだよ」
「そうです、きっと、カルデアに来るまで、唯斗さんの優しさを披露するに足る相手がいなかっただけなのです。唯斗さんはずっと、誠実で優しかったんですよ」
そんなこと、考えたこともなかった。生まれてから、フランスで苦しい日々を過ごし、日本で孤独の末に召喚術式の生贄にされ、その後は正真正銘一人で生きていた唯斗にとって、自分がそんな高尚な人間だと思うはずもなかった。
特異点でだって、立香たちとは違う、自分のような人間こそもしものときに犠牲になればいいと思っていたし、それは自己犠牲ではなく、単に自分にそこまで生きる価値を見出していなかっただけだった。
合理的に、求められることのない自分が優先される理由はない。それだけのことだった。
こんな自分にも、いっぱしのまともな人間らしさがあったらしい。それは今ここで、初めて知ったことだった。
「……ありがとう、でも、さすがにちょっと恥ずかしいな、これ…」
「三人とも可愛い!みんなまとめてお弟子にする〜!!」
さすがに気恥ずかしくなると、三蔵が突然三人まとめて抱きしめてきた。
「ちょうど三人いるし!」と言ってぎゅうぎゅうと抱きしめてくる三蔵を、呆れたように藤太が引きはがす。
だが、おかげで空気を払拭できたのは確かだった。咳払いとともに、ホームズがヘルメスに向き直る。
「さて、時間は有限だ。若人たちに水を差すのは私の本意ではないがね。最後に、聖槍ロンゴミニアドについてだ」
カルデアと通信が繋がっていなくてよかった。カルデアのスタッフたちから生暖かい目で見られるところだった。
そう思いながら、立香たちから離れてホームズによる検索結果を待つ。すぐにヘルメスから吐き出されたロンゴミニアドの詳細を一通り見たホームズは、表情を変えないながらも、驚愕の真実を告げる。
聖槍ロンゴミニアド、それは、世界にいくつも存在するという「最果ての塔」という塔であるらしい。アーサー王が持つものは、その影、ちょうど、カルデアにいるサーヴァントを戦闘時だけ影として特異点に召喚するような関係に近いものだという。
最果ての塔はこの世界の物理法則そのもの。今この世界が世界として存在するのは、地球の表面にテクスチャーとしてピンに止められているからで、このピンこそが最果ての塔ということだ。
この塔を、獅子王は聖都に出現させた。一夜にしてあの大都市が出現したのは、あれがキャメロットを模したロンゴミニアドの外郭だからだ。
ロンゴミニアドには500人の魂が格納できる。それはつまり、獅子王が聖槍に善なる魂を閉じ込めて情報として保管し、人理から外れることで人理焼却を免れようとした、ということだ。まさに標本である。
そして聖槍への格納が完了して時代から外れれば、それは新たなピンを止める行為となる。つまり、そこが最果てとなる。だからこの世界は端から徐々に消えているのだ。
そんな考え方をするなど、トリスタンの言う通り、もはや人間の心などない。
それならば、もう一刻の猶予もないだろう。知るべきことを一通り知った今、あとは地上に出て聖都攻略を実行に移すだけだ。