神聖円卓領域キャメロットIII−10


難民キャンプにいたのは、なんとダ・ヴィンチだった。

ランスロットたちの部隊に捨て身の攻撃を仕掛けた際、ランスロットが庇ったことで一命をとりとめたらしい。しばらくこのキャンプで療養し、ここ数日は聖都で出会った商人セルハンを使って地域情勢を把握していた。

また、ロマニとも通信ができたため、ダ・ヴィンチも含めて情報共有を行う。やはり二人はさすがで、ロンゴミニアドについてさらなる見解を示した。

なぜアルトリアが変質したのか。それは、聖槍を持ち続けたことで聖槍と同化し、人間ではなくなったからだ。要は、神霊になったということだ。
それによって人間的な価値観や視座をなくし、超越的な思考をするようになった。その結果が、人間を情報としてサンプリングして保存し人理から外れるという方法だった。

さすがになぜそう長いこと聖槍を持ち続けるような末路を辿ったのかは誰にも分からなかったが、いずれにせよ、この特異点を解決しなければたとえソロモンを倒しても人類史は崩壊する。
しかし、依然として聖都の戦力には敵わない。

そこで、オジマンディアスとの交渉を行うことになった。オジマンディアスに対して、勝機はこちらにあると示すことで味方につけるという寸法だ。カルデア側は渋ったが、現状、それしか打開策はない。

まずベディヴィエールは休養がてら東の村への伝令役になってもらい一足先に山岳地帯へ、セルハンにはオジマンディアスと山の民が手を組んで聖都を攻めるというのを村々に吹聴して回る役割を託した。
そして残りのメンバーで砂漠を超えてオジマンディアスに謁見するのである。

そうと決まればすぐに出発となり、ランスロット麾下の騎士たちとダ・ヴィンチを含めて砂漠へと向かう。今回はダ・ヴィンチによる改造オーニソプターがあるため、徒歩ではなく快適な移動ができる。

そうして一気に大神殿付近まで到達すると、交渉という名の戦闘があり得る状況だったため、夜とともに野営となる。

砂漠のあちこちにテントが設営され、騎士たちが眠り、藤太など一部のサーヴァントは警戒のために見張りをしてくれている。

例によって寝付くのが遅い唯斗は、早々に寝袋を出て砂丘の一つに向かう。月明かりの下に見えた人影を辿ったそこには、三蔵が巻物に何やら書き留めていた。


「大唐西域記か」

「雨宮さんじゃない、どうしたのこんな時間に」

「普段から寝付くの遅いからな」

「そうなの。あたしはどこでもすぐに寝れちゃうけどね。修行が足りてないと見た!ちなみにあたしは日記を書いてたの。今日あったことを書き留めるだけだけど」

「さすがに達筆だな」


三蔵は砂に敷いた敷物の上に座り、書き終わった巻物を巻いて閉じていく。それを立ったまま見ていると、三蔵はこちらを見上げた。


「よかったらちょっと話さない?あなたとゆっくり話してみたかったの」

「…俺でよければ」


隣に腰かけると、まずは取り留めもない話題から三蔵が振ってくれた。立香と同じか、より天然な三蔵は、案の定話題に事欠かず、しばらくは普通の話題で会話が続く。
やがて、三蔵は明るい月を見上げて、ゆっくりと切り出した。


「君は、獅子王のことどう思った?ロンゴミニアドの目的を聞いて、どう考えたの?」


そういう話もするのか、と少しだけ驚きつつ、唯斗はさらさらと風によって流れる砂粒を見ながら考える。答えはすぐに出た。


「人は善も悪もどちらも知っているから、人なんだと思う。善を生存の前提とするなら、善なる行いだけをするのは生存に必要な行いをするだけってことで、それは他の動物と同じだ。人間が人間なのは、生存目的じゃないことにも価値を生み出せるからなんじゃないかって思う」


文明とは余暇から生まれる。文明の進展や経済の発展は、余剰生産物の取引を必ず起点とするのだ。無駄な物事に価値を見出し、必要のないことから価値を創造するから、人間の文明は他の動物と違うのだろう。


「とってもあなたらしいわ」

「三蔵は?」

「あたしはね、可能性の芽を摘み取る行為だから許せないの」

「可能性…あれか、十界とか、そういう思想か」

「よく知ってるわね、さすが」


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