邪竜百年戦争オルレアンI−7
砦のフランス兵に詳しく話を聞くところによると、ジャンヌ・ダルクはルーアンで処刑されたあと、甦ってフランスに戻り、シャルル7世を殺害した。
兵士いわく、「悪魔と契約した」とのことだが、どういうことか詳細を聞こうとしたときだった。
「ヒッ…!やっぱり来た…お前ら立て、ほらほら立て立て!戦わなきゃ食われちまうぞ!」
兵士は唯斗たちの背後の空を見て怯えた表情を浮かべ、慌てて周囲の兵士たちを臨戦態勢につかせ始めた。視線を追って唯斗たちも背後の空を見上げると、快晴の青空に翼を広げる巨大な怪物の姿。
「っ、ワイバーン?!なんでこの時代に…!!」
それはなんとワイバーン、ドラゴンの一種だった。本来は神代のような幻想種という伝説上の生き物が闊歩していた時代の生き物で、人類文明が発展して「未知」のものが消えていくにつれて姿を消した。中世末期に現れることはありえない。
翼を広げた全長は10メートル以上あるだろう。
するとそこへ、凜とした女性の声が響いた。男ばかりの戦場にあって周囲の聞こえ渡る美しい声とともに、青空と草原を背景にブロンドの髪が長く編まれて揺れる。髪とともに空にはためくのは白地に王室の紋章が描かれた大きな旗。
「兵たちよ、水を被りなさい!彼らの炎を一瞬ですが防げます!」
「この人は…」
『サーヴァントだ!しかし反応が弱いな…!』
サーヴァントというのは見て分かる。問題は誰かということだが、すでに数匹のワイバーンが会敵距離に入っていた。
「立香、やるぞ」
「うん!マシュ、戦闘態勢!」
「はい、先輩!」
ワイバーンの風圧を感じられるようになった瞬間、ワイバーンの口から火炎放射が放たれた。一気に周囲が赤く照らされる。
唯斗はすぐにワイバーンにほど近い距離で結界を展開した。幾何学模様の魔方陣が輝きながら炎を防ぎ、炎は結界から空気中に拡散していく。
「マシュ!今のうちに背後に回り込んで攻撃だ!」
「はい!」
立香の指示でマシュは一瞬で草原を走りワイバーンの下から背後に回り込むと、思い切り飛び上がって背後から盾で打撃を打ち込む。
「立香、竜種の鱗は攻撃が通らない。腹部を狙わせた方がいい。火炎の防御と隙の創出は俺がやる」
「分かった。マシュ!鱗のない腹を狙うんだ!」
マシュは遠くで頷くと、ワイバーンの下に回り込む。気づいたワイバーンが鉤爪で攻撃しようとしたが、唯斗は魔力を多めに籠めたガンドでワイバーンの目を正確に狙って攻撃した。ワイバーンは咆哮を上げるとマシュから気を逸らす。その隙に、マシュはワイバーンの腹を重い攻撃で打ち抜いた。
ワイバーンは悲鳴を上げて飛び上がり、翼を痙攣させて地面に墜落した。
そうやって各個撃破していき、なんとかワイバーンの群れを倒した。別のところで女性サーヴァントも戦っていたが、そちらは唯斗がたまにフォローしなければ厳しそうだった。
『ようし、よくやったぞ諸君!』
通信でロマニもそう言っており、敵性反応は観測されなくなった。
どうなることかと思ったがなんとかなった。それにしてもマシュのデミ・サーヴァントとしての能力はやはり高い。
しかしそこに、兵士の鋭い声が響いた。
「そんな、あなたは…いや、お前は!逃げろ!魔女が出たぞ!」
魔女と呼ばれた女性サーヴァント。額から頭部前方を覆う金属の飾り防具に紫がかった金属の鎧、同じく紫の肩布を纏った姿は、直感で誰か見当がついた。
それは同時に疑問も呼ぶ。一人の英霊が同時に召喚されるのか、ということだ。
兵士たちが逃げ出すのを見ながら、マシュはサーヴァントに呼びかける。
「あの、あなたは…」
「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラです。真名をジャンヌ・ダルクと言います」
「ジャンヌ?!」
驚く立香とマシュに、少し困ったようにしてからジャンヌは森を指さす。
「その話はあとで。こちらに来てください。お願いします」
マシュは立香を窺う。立香は「行こう」と即決だった。唯斗も異論はなく、ロマニも手がかりになるだろうと賛成した。
魔女と呼ばれながら復活したはずのジャンヌ・ダルク。本人こそ、何が起きているのか事情を知っているはずだ。