神聖円卓領域キャメロットIII−18


ランスロットが号令をかけて、その場はお開きとなる。少しだけ空気は弛緩し、それぞれ村のあちこちに設置したテントに向かっていく。
ダ・ヴィンチはオーニソプターの調整を行うそうで、唯斗は言われたとおりに夕食を取りに行こうとテントを出ようとした。そこに、ダ・ヴィンチが声をかけてくる。


「じゃあランスロット卿、唯斗君のことは頼んだよ。同郷のよしみだ」

「あぁ。それでは行こうか唯斗殿」

「…え、本気か」

「ダ・ヴィンチ女史の意図は理解されているのだろう」

「…わかったよ」

「じゃ、良い夜を!」


ウィンクで送り出したダ・ヴィンチで内心で舌打ちをしつつ、やはり意図に気づいていたらしいランスロットと共にテントを出る。
連携できるよう、互いにある程度は関係を改善させておけ、というのはしっかりと揃って理解していた。

藤太のところに向かうためにテントから歩き出すと、早速、隣を歩くランスロットが口を開いた。


「それにしても、フランスにいたのだな。確かに美しい発音だった。内容はあれだったが」

「…謝らないからな、そのことについては」

「もちろんだとも。私も謝罪や責任、というようなことはもはや言うまい。だが、かの弓兵が唯斗殿を守っていたというのなら、せめてその意思だけは私が継ごう。獅子王の裁きから民を救った英雄への敬意として」


歩幅を唯斗に合わせてゆっくりと歩いてくれているランスロットは、歩調と同じようにゆっくりと述べた。
当然だ、アーラシュもランスロットも、そのときの自分にとって正しい道を選んだ。謝罪は相手を愚弄する。ならば、その意思を継ぐだけだ。そういうところは、やはり騎士らしい。

そうして炊き出しをやっていたあたりまで近づくと、立香が現れた。こちらを探していたらしく、唯斗を見つけて駆け寄ってくる。


「あ、良かった!これ、藤太から預かってたんだ。唯斗の分だよ」

「ありがとう、助かった」


おにぎりと簡単な肉のセットのような木製の皿を受け取ると、立香は隣のランスロットを見て二人のことを察したらしい。一瞬、何を言おうか迷ったようだったが、立香は空気を軽くする方を選んだようだ。


「ランスロット、唯斗のこと襲ったり連れ込んだりしたらだめだからね」

「なっ…!」

「おい、それ誰から聞いた」

「サンソンから、キャスターとランスロットはブラックリストって聞いて」


とんでもない忠告に、ランスロットは驚いて、唯斗は呆れる。やはりというか、サンソンが立香に情報を共有していたらしい。立香のサーヴァントの中で前科がある二人だ。

「じゃあね〜」と言ってさっさと立香は戻り、また二人になる。ランスロットは慌ててこちらを振り向いた。


「私とあなたはいったいカルデアでどのような関係なんだ!?」

「迫られてたらしい。もしあのままランスロットに連れ込まれてたらアウトだっただろうな」

「な、なんと…」

『こちらでもモニターしているからね、ランスロット卿』


通信からロマニもそう言ってきて、ランスロットはあからさまに動揺する。男に、それも契約はないとはいえマスター相手にそんなことをしていたとは、という驚きと焦りだろう。


「俺から誰かに話しかけるってあんまないし、用もないのに声をかけるなんてことはまずなかった。それでも俺からランスロットに話しかけたんだ。憧れの英雄だったから、話してみたくて」

「憧れの…」

「フランス育ちだからさ。円卓ならランスロット卿が一番好きだった。だからアーラシュにしたことはショックだったし、味方になってくれて嬉しかった。臆病者、なんて、言いたくなかったし撤回したかったけど、アーラシュのためにも謝ることなんてできなくて」


気まずさの根本にあったのは、唯斗自身がランスロットに「臆病者」と言ってしまったのを気にしていたことだった。カルデアでふざけて言ったことがまさか本当になるとは思っていなかった。
味方になってくれた今、謝りたい気持ちはあったが、アーラシュのことを考えるとできるわけもない。きっとアーラシュは気にするな、と言ってくれるのだろうが、こちらの心の問題だ。


「…先ほどの言葉を改めよう」

「…?」

「私は自身の行いそのものを詫びることはしない。だが、君にそんな思いをさせてしまったことは謝罪したい。心優しい君に、人を傷つける言葉を言わせてしまって、すまなかった」


月明かりとテントの光源くらいしかない暗さの中でも、ランスロットの美貌は褪せず、唯斗を真摯に見つめる瞳が焚火の明かりを反射して光っている。

「許す」だなんて上からのことを言うわけにもいかず、なんと返そうか迷ったが、素直に気持ちを述べることにした。


「…やっぱり、ランスロットが一番憧れの英霊だ」

「唯斗殿…」


気恥ずかしくて、照れ笑いのようなもので誤魔化しながら言うと、ランスロットはすっと唯斗の腰に手を回そうとした。
そこに、通信から聞き慣れたサーヴァントの声が割り込む。


『サー・ランスロット、次はないと言ったはずだ』

「…何してんだサンソン」


わざわざ霊体化を解いてまで通信に入ってきたのはサンソンだった。後ろではスタッフたちの苦笑する声が微かに聞こえてくる。マシュが居合わせたらどうなっていたことか。

ぱっと無実だと両手を上げるランスロットを見て、唯斗は小さく噴き出す。
和やかな雰囲気ではあるが、いよいよ明日は決戦の日。これで、この特異点を修正できなければ後がない。
明日で、必ず決めるのだ。


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