神聖円卓領域キャメロットIV−5


王城の裏口へと向かったランスロットと分かれて、唯斗は立香たちとともに城へと走る。

とにかく、ガウェインと会敵する前になるべく前に進みたかったのだが、それを阻むように、トリスタンが一同の前に立ちはだかった。
トリスタンによる一撃をベディヴィエールがすんでで防いだが、悠然と通りを塞ぐように立つトリスタンを躱して城へと向かうことは不可能だ。


「…私が思うに。運命とは死神のようなもの。これを追い抜く者には幾ばくかの猶予が与えられ、追いつかれたものには死が与えられる。あなた方は、一度は運命を追い抜いた。その力、見せていただきましょう」


東の村で、アーラシュの宝具によって死の運命を唯斗たちは逃れた。村を守り抜いて散っていったその最後の一瞬で、唯斗に感謝を伝えてくれたあの英雄の姿が脳裏に浮かぶ。

ベディヴィエールも同じようなものだったのだろう、トリスタンを静かに睨みつけた。


「…トリスタン。あなたに語り掛ける言葉はもうない。あの村で、私の知るトリスタン卿は消えた。いかに未熟であれ、私は騎士王の騎士!獅子王の騎士であるあなたに、遅れを取るわけにはいかない!」

「……そうでしょうとも。ようやく、その心境に至りましたか」


ベディヴィエールの毅然とした言葉に、トリスタンは静かに頷いた。少し意外な反応だ。そして、やはり凪いだ表情のまま、淡々と言葉を続けた。


「初めから、あなたの知る円卓などこの地にはなかった。私たちは獅子、獣の心を持つ悪鬼。あなたがたを惨殺し、この時代を踏み台にし、自分たちだけが生き残ることをいとわない。申し訳ありませんが、今はそれだけなのです」


反転のギフトを与えられたトリスタン。極めて優秀で人格にも優れていたからこそ、その反転という呪いは反動となった。あれだけの残酷なことをできたのは、もともとそれだけ人徳のある人物だったからだ。
むしろ、残酷であるほど元の人格を証明しているのである。

それならば、アーラシュのことを恨むようなことはあり得ない。これは呪い、獅子王にかけられた呪縛だ。獣に成り下がった己を自覚しながらも逆らえないトリスタンの内心こそ、あまりの悲劇ですらあった。

そうしてトリスタンとの戦闘が始まり、唯斗はディルムッドを、立香はランサーを召喚して戦ったが、一向に攻撃が通る気配がない。

まさか反転とは、アーチャーというクラス属性すら反転させているのではないか、と思ったときには遅かった。すでに長い時間をここに拘束されているにも関わらず、こちらは魔力を疲弊し、トリスタンは依然として余裕そうにしている。


「おいマスター!攻撃通らねぇぞ!」


ランサーが立香に焦ったように声をかけると、トリスタンは悠然と微笑む。


「私は悲しい…今回、時間は私の味方です。私はここであなた方と戯れていればよい。ああ、なんという悲劇でしょう」

「私が予想した通り、やはりあのアーチャーが一番の問題だ。彼は最も質の悪い行動を取る!」


ダ・ヴィンチは笑顔を絶やさないが、しかし目には焦りが見える。マシュも、倒す気がないにも関わらず突破できないトリスタンに、盾を石畳に突き立てて顔をゆがめる。


「彼は本当に私たちを倒す気がありません、これでは…!」

「マスター!こりゃいったんセイバーに編成を…」


ランサーが唯斗と同じ考えに至り、サーヴァントを変えるよう進言しようとした。
そこに、突如として別の声がかけられる。


「否!貴様の悲劇など我らにとっては喜劇!」


背後から現れた姿に切りかかられ、トリスタンはすぐに道の脇へと避ける。

そこに現れたのは、百貌、呪腕、静謐のハサンたちだった。城壁からここまで追いついてくれたらしい。


「お待たせいたした、藤丸殿、雨宮殿!積る話もありましょうが…今は一刻を争うとき。どうぞ先に進まれよ。この男は我らの獲物。山の翁の誇りにかけ、何があろうと命を絶つ」


西の村を滅ぼし、東の村を襲撃し、無数の命を奪ったトリスタンを、ハサンたちは決して許さない。ギフトの呪いを知るこちらにはない、彼らだけの怨嗟。
彼らの矜持もあるし、何より一刻も惜しいのはその通りなのだ。

立香は頷いて、王城へと足を向ける。


「死なないでね、ハサン!」

「ははは、それはこちらのセリフですなぁ!では、これにておさらば。この一戦を以て、これまでの大恩に報いまする」


312/460
prev next
back
表紙へ戻る