神聖円卓領域キャメロットIV−6
ついに王城に突入した。
中はほとんど人気がなく、兵士たちは市内に出払っているのだと分かる。すでにランスロットは城内に入ってアグラヴェインを追っているようだ。
かつてのキャメロット城と同じ構造らしく、玉座への案内はベディヴィエールが買って出る。
白亜の壁に漆喰の内壁、細かい装飾の柱、柔らかなカーペットやタペストリー、そしてふんだんに使われた大理石。
広大な空間に全員の足音がよく反響し、巨大な王城を一気に駆け抜ける。
思えば、城に攻め入るのは第一特異点のオルレアンと第二特異点の偽ローマ以来となる。そして、そのどれよりも遥かにこの城は大きかった。
やがて螺旋階段を上へと昇り始めると、足に強化魔術をかけていてもその高さに膝が重くなる。何度か階段を変えているが、相当高いところまで登るらしい。
『まずい、階段の下から強力な霊基反応!これは…円卓の騎士、サー・ガウェインだ!』
「やはり来ましたか…彼が間に合わないはずがない」
ちょうど、また別の階段に向かうため、大きな回廊に出たところだった。
長さは60メートルほど、幅も30メートルはある巨大な回廊だ。高さは3階分吹き抜けになっている。玉座のある中央塔に接続する回廊のようだ。
この先の階段を上がれば、そこは玉座となる。
両側に高い窓が埋められ、爽やかな陽光が斜めに差し込んでアーチ状の窓枠の影を大理石の床に落としていた。その大理石を、ごつりと踏む鉄の足音。ひときわ存在感を放つ男が現れ、10メートルほど離れた位置で相対した。
マシュはたった一人で現れたガウェインに目を見張る。
「サー・ガウェイン…!あなたひとり、なのですか…?」
「ええ。騎士たちには各々の選択を与えました。彼らの命運は、もう私とは関係がない。ここで私があなた方を切り伏せたところで、私が地に伏したところで、聖都の行く末は変わらない。最果ての塔が現れたとき、我らの役目は終わったのです。あとは我ら円卓、各々がどう王に殉じるか決めるのみ」
聖槍が起動したことで、ガウェインはそれまでの任務をすべて完了と見做し、あとは最期まで獅子王のそばに仕えることを選んだようだ。
「そのようですね。ここで獅子王の過ちを明かしても、聖都を糾弾しても、あなたは最期まで王の剣であろうとする」
「無論です。王は私を召喚したとき、こう告げました。『太陽の騎士、もうひとりの聖剣使いよ。今度こそその望みを果たすがいい』と。王に仕えるも、聖都を離れるも自由だと。そのときの喜び、あなたには分かるまい。王の窮地に居合わせ、その最期を看取ったあなたには」
ガウェインは、ずっと後悔していたのだろう。
ランスロットと王妃の不貞が露見し、それを明かしたアグラヴェインをはじめ次々と円卓の騎士たちがランスロットに殺されていく中、ガレスなど兄弟すら奪われたガウェインはランスロットへの恨みに憑りつかれた。
王の右腕でありながら、アーサー王がカムランの丘で滅びる運命を変えることができなかったのだ。
「アーサー王はかつてのアーサー王ではない。それは陛下自身が誰よりも分かっている。そうでなければ獅子王などと名乗るまい。あの方は初めから、我ら全員に機会を与えていた。どんなに独善的なものであれども、世界を守ると宣言し、その上で我らに選択させたのだ。なぜこの地に我らしかいないのか。それは、ほかの円卓の騎士たちは離反し、我々が手にかけたからだ」
獅子王は円卓の騎士をこの地に召喚してギフトで縛りながらも、それでも選択させたのだ。自らに仕えるか、己の信条を守るか。
その結果、パーシヴァル、ケイ、ガヘリス、パロミデス、ペリノア王、ボールスは反旗を翻し、それをガウェインたちは手にかけた。
円卓が仲間同士で殺しあい、その後十字軍を滅ぼして聖都が築かれたのだ。その原点から血塗られた特異点は、あまりにおぞましいものだった。
ランスロットは疑問を抱きつつ、それでも王に従うことを選んだ。モードレッドは暴走のギフトの果てに今度こそ王に仕えることができると考えた。トリスタンは反転のギフトによって考える余地もなかった。
そしてガウェインは、疑問を抱くこともなく、生前王を守れなかった悔いを改めるべく、何があろうと最期まで王とともにあろうと誓った。自身の兄弟だけでなく、あれだけの無数の人々を手に掛けておきながら、すべては自分の生前の後悔を晴らすためだったという。
無辜の民よりも自身の悔恨を優先したのだ。それならば、もはや語り合うことも無駄である。
「獅子王に忠誠を誓った我らは罪人。何があろうと、獅子王を裏切ることはない。その剣を抜け、サー・ベディヴィエール、古き円卓にして善き騎士道の最後の一人よ!」
ガウェインは顛末を語り終えると、話はしまいだとばかりに聖剣ガラティーンを抜く。獅子王との決戦前、これが最後の戦いだ。