神聖円卓領域キャメロットIV−8
しかしそれでもなお、ガウェインの四肢を切断することすらできず、再び膨大な炎が放たれる。炎は指向性を持っており、立香たちと分断されたアタランテはガウェインを挟んで反対側へと飛び上がった。
こちらへ迫る炎はキャスターが結界で防ぐが、今度はもっと威力が増していた。
「うお、なんだこいつ…!こりゃ、押し切られるぞ…!」
結界が軋む音が響く。結界の中はすぐに熱くなり、ギルガメッシュは舌打ちをした。
「おい何をしておるのだ狗!」
「っるせぇ!この場くれぇ守り切るっつの!」
キャスターはギルガメッシュに怒鳴り返しつつ、結界を増強する。
しかし、炎がようやく消えて結界も消した瞬間、ガウェインがすぐキャスターの目の前に迫っていた。
「んな…ッ!」
目を見張るキャスターを、ガウェインは剣で横薙ぎに切りつけ、ざっくりと切られたキャスターはそのまま吹き飛ばされる。壁に激突したキャスターはぐったりと崩れ落ち、壁には血がべっとりとついていた。
「キャスター!!」
「先輩、アタランテさんが…!」
さらに、アタランテは先ほど炎に包まれている間に各個撃破されていたらしく、その姿はなかった。
この短時間で、ロビンフッド、エウリュアレ、アタランテの3騎を消失させ、アルジュナとキャスターを瀕死まで追い込んだ。こちらの攻撃もかなり入ったはずなのに、ガウェインはすでに回復してピンピンしている。
立て続けにサーヴァントを召喚したために、立香も魔力を急に消費して息を切らしていた。ベディヴィエールはこのあとの獅子王との戦いまで残ってもらなければならないが、ここでアガートラムを解放すればそれは叶わないだろう。
全滅する。その可能性が現実のものとなった途端、とてつもない恐怖が足元から湧き上がってくるのを感じた。
それは死への恐怖というよりも、立香がここで死んでしまえば、人理修復の役目がすべて自分の肩に伸し掛かるかもしれないというものだった。この期に及んでなんと自分勝手なことだろう。そんな自分に、自分のことなのに怒りが沸く。
だがそうはならない。全滅するよりも、時間稼ぎに徹して立香とベディヴィエールを獅子王の元へ送り出す方がマシだ。
そのために唯斗がいる。立香の代わりに、命を差し出してでも道を切り開く。そのための予備員であり、予備員に甘んじてきた自分にできる唯一の貢献だ。
なぜなら、このグランドオーダーは立香一人でもできたであろうもので、唯斗は最初からいなくても良かったはずなのだ。それでも自分はここにいる。しかも、ろくに立香を支えることもできず、友人として元気づけることもできず、苦しさや恐怖を抱え込ませ続けてきたのだ。
ついに役目を果たす時がきたということである。
「…立香」
「なに?」
「……先にベディヴィエールとダ・ヴィンチを連れて獅子王のところに行け。ここは俺が防ぐ」
「な、に言ってんの…?」
愕然とした立香と、聞いていて目を見張るマシュとダ・ヴィンチ。
ギルガメッシュは依然としてガウェインを拘束しつつちらりとこちらを見て、エミヤも攻撃して牽制しながら様子を伺っていた。
『何を言っているんだ唯斗君!ただでさえ強敵なんだ、無謀すぎる!』
「もうロンゴミニアドは起動してる。このままここにいたら、間に合わない」
「危険です唯斗殿!せめて私が、」
ベディヴィエールも残ろうとしたが、唯斗はベディヴィエールの目を見つめ、あの村での夜を思い返した。
「何があっても獅子王を倒すって、約束しただろ、ベディヴィエール」
ベディヴィエールもその言葉で思い出したらしい、目を見開いてから、ぐっと唇を引き締め、頷いた。
「ッ…!ええ、承知いたしました。あなたの決意に敬意を。行きましょう、立香殿」
「そんな、でも、」
「三蔵、オジマンディアス、ニトクリス、ハサンたち、みんな俺たちに道を開けてくれた。次は俺だ。別に死ぬつもりはない。自己犠牲とかじゃなく、単なる分担だ。いつものことだろ」
それでもまだ止めたそうにした立香は、ぐったりとして動かないキャスターを見て、首を振るベディヴィエールを見て、そして唯斗を見た。
「…約束して。絶対、死なないで」
「当たり前だろ。早く行け」
「…、マシュ、ダ・ヴィンチちゃん、ベディヴィエール、行こう」
立香の決断に対して、全員いろいろと言いたそうにしたが、それらをすべて立香は承知しているのだと理解して、それに応じた。
キャスターはカルデアに戻り、立香たちは玉座に続く階段へと走っていった。
残るは唯斗とギルガメッシュ、エミヤである。
「高尚な判断ですが、愚かです。たった一人で私と戦うおつもりですか」
「俺は一人じゃない」
「さて…それはどうでしょう」
ガウェインは再び莫大な炎を剣から放出する。もう防御ができるのはギルガメッシュのみ、しかし立香たちはまだ塔へと続く階段の入り口にいる。
「ギルガメッシュ防御!」
ギルガメッシュは鎖を消すと、また結界によって炎を防いだ。この繰り返しでは疲弊させられるばかりだ。戦略を変えたいが、この火力では近づくことなどできない。
なんとか立香たちが階段を進みだして、送り出すことに成功したところで、炎が止んでギルガメッシュの結界も消える。
自由になったガウェインを足止めするべく、再びギルガメッシュは鎖を出現させていくが、器用にガウェインはそれを俊敏な動きで避けていく。せめて相手の攻撃力を下げなければ。
「令呪を以て命じる、エミヤ、固有結界発動」
「承知した。
無限の剣製」