神聖円卓領域キャメロットIV−10


「終わりです。よく戦いました。誇りなさい」


姿勢を低くし、ガウェインはこちらに向けて剣を払おうとする。その動きによって、あの炎がこちらに迫るのだろう。
今からギルガメッシュを呼び出すのは間に合わない。アキレウスもディルムッドも動けない。


「っ、我らをこころみにあわせず(ハ ノン レジット ケット)、」

「マスター…!!」


焦ったディルムッドの声、薙ぎ払われるガウェインの剣。


悪より救いだしたまえ(ダ ヴォント ガント アン テンプタデュール)!」


唯斗が詠唱を完遂したのと同時に、ガウェインの剣から炎が放たれた。
タッチの差で、唯斗の結界が3人の周囲を取り囲み、ガウェインの炎があたりを包んだ。状況としては本当にアメリカでのアルジュナ戦に似ている。


「ぅぐ…ッ!」

「マスター!もう、魔力が…!」

「…マス、ター、」


アキレウスはなんとか上体を起こし、ディルムッドは膝をついた唯斗の体を支える。なんとか結界は維持できているが、この炎を耐えたところで、この二人の現界はもはや保てないだろう。

この炎が自分を焼くのだと思うと、体が震えそうになる。急に湧き上がってくる恐怖は、先ほどとは異なる。
それは、明白な死への恐怖。立香に代わって自分が死ねばいいと思っていたくせに、いざそのときが来てみると、あまりに怖くて、それだけ呼吸ができなくなりそうだった。


「…ディルムッド、アキレウス。最後までありがとう」

「な…我が主、何を…!アキレウス殿とお逃げください!令呪も残り一画でアキレウス殿と逃げられるのでは!」

「総量で考えればその通りだけど、魔力は一瞬当たりの放出量も重要だ。これ以上、急に魔力を消費したらそれだけで死ぬ。令呪はそういうもんだ」


その一瞬に消費される魔力量が一定を超えれば、魔術回路が焼き切れて死に至る可能性があった。確かに魔力の総量で言えばディルムッドの言う通りだが、この強力な結界を展開してしまった状態でさらに令呪を使ってしまえば、もうもたないだろう。

アキレウスはなんとか体に力を入れると、おもむろに、唯斗の背後の大理石の床に槍を突き立てた。その威力によって、床が部分的に貫通し、穴が開く。


「…ディルムッド、少しでも時間、稼げ」

「…もちろんだ」

「何して、」


アキレウスはディルムッドにそう言い残すと、唯斗を抱えてその穴に向かう。階下に逃げるつもりだ。


「結界が消えたらすぐ、俺はカルデアに戻ることになるだろう…その前に、下で着地させるくらいはする。あとは、マスター、走って逃げろ。ディルムッドが時間を稼ぐ」

「我が主よ、必ず、必ずや、カルデアに生きて帰ってきてください」


必死のディルムッドの顔を見て、唯斗はぐっと拳に力を籠める。そうだ、彼らは必ず唯斗を生かそうとする。諦めている姿を見せるわけにはいかない。

せめて彼らがこの特異点での役目を果たしてくれている間は、マスターでいなければ。


「行くぞマスター、捕まってろ」


アキレウスはそう言って唯斗を抱きかかえると、穴から階下へと落下した。
回廊は二階建てらしく、この下も同じ構造の回廊が見えていた。上階での戦闘によって、燭台が落下し、壁にはひびが入り、窓ガラスが割れて飛散しているが、眩い陽光が差し込んでいることには変わらなかった。

同じ大理石の床に着地したアキレウスは、どさりと倒れる。どうやら体はガラティーンが貫通したらしく、噴き出す血で瞬く間に辺りは赤く染まった。
これは霊核が半分ほど抉られている。よくこれで現界を維持しているものだ。


「走れ、マスター…!」


そしてアキレウスは光とともに消失し、カルデアに戻る。一方、唯斗が結界を消したことで、上階ではディルムッドとガウェインの戦闘が始まった。


『唯斗君、状況はどうなっている!?すでにほとんどのサーヴァントを失っているだろう!バイタルも著しく低下している、早く逃げるんだ!』

「…、悪い、間に合わないかもしれない」


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