神聖円卓領域キャメロットIV−11


なんとか、アキレウスがいたところから立ち上がり、唯斗はカーペットの上を走り出す。天井から埃が舞い落ちるほどの衝撃を起こしながら戦闘が続いているが、再び膨大な熱量が感じられて、ディルムッドの反応が消えた。
もはや、唯斗にできるのは、あと一つだけだ。


『唯斗君!逃げろ!!』

『唯斗!?大丈夫!?』


ロマニと立香の声が聞こえるが、唯斗はもう喋る気力もない。ただ、詠唱の声は聞こえるだろうから、立香が焦って戻ってくるなんてことはないだろう。
立香との約束は破ってしまうことになるし、きっと優しい彼らを悲しませてしまうだろうが、今までの特異点での悲しい別れと同様に、乗り越えて残る一つの特異点も解決してくれるはずだ。


我らに罪をおかす者を(ディスタリット ディンプ オン ドゥルー)、」


こんなことなら、アーサーを呼んでおけばよかった。ギルガメッシュやアキレウスがもう呼べないのだ、アーサーのような一級のサーヴァントを呼び出す余力などない。


我らがゆるすがごとく(イーヴェル モル ボー イヴェズ)、」


それに、サンソンや立香が言ってくれたように、少しくらい、通信で話しておけばよかったかもしれない。後悔先に立たずとはよくいったものだ。
今更こんなことを考えたところで、もう一人であることに変わりはない。


我らの罪をもゆるしたまえ(ディスタレット ドン ドゥルーリオン)


詠唱を終えた直後、天井が崩れて、ガウェインが唯斗の前方に着地した。
待ち構えていた唯斗を見て意外そうにしたが、一瞬だけ目を伏せて、そして剣を構える。


「…さらばです、異邦のマスターよ」


そう言って、ガウェインは何度も見たのと同じように、剣を水平方向に構える。

そして、その炎がついに唯斗へと放たれた。眼前に迫る炎、叫ぶロマニ。
唯斗は瞬時に結界を自身の目の前に何百と重ねて、同時に治癒魔術を右肩から先にかける。
すぐに到達した炎は、僅かな結界にしか阻まれていない唯斗の右腕を焼いた。体に添うように展開している薄い結界でこの炎を防げるはずもなく、唯斗の右腕は焼け爛れていく。


「ッ、ぐ、あああああああああ!!!」


痛みに叫びながら、唯斗は治癒魔術を肩から先にかけ続け、同時に右腕以外の体を強固な結界で幾重にも重ねて防御する。現状、焼けているのは右腕だけで、それも治癒と薄い結界でなんとか炭化するのを防いでいるが、あまりの痛みに失神しそうだった。

それでも、左手の指を掌に突き立てて、爪で皮膚を破り、その痛みで気を保つ。それ以上の痛みが腕を襲っているが、意識を少しでも左手に集中させた。

しかしその直後、炎の向こうでガウェインの「ぐあッ!」という呻き声が聞こえ、炎が止まった。
つい唯斗は膝から崩れ落ち、床に左側を下にするようにして横向きに倒れてから、ちょうどいいところにあった瓦礫まで這って、なんとかそれに背を預けて上体だけを起こした。

視線の先では、ガウェインが焼けた右腕を左手で庇っていた。


「な、にを、したのです…ッ!」


こちらを睨みつけるガウェインの右腕は焼け爛れ、唯斗の右腕と同じかそれ以上にダメージを負っていた。


「…俺が、受けた傷を、そのまま跳ね返す術式だ…倍以上にしてな…ぐ…ッ、痛いだろ、3倍、ただでさえギフトがある、からな…!!」


先ほどの長い詠唱は、自らが負傷することを条件に、それ以上の怪我を相手の同じところに負わせる魔術だ。ガウェインはギフトもあるため、余計に大きなダメージとなったはずだ。

重度熱傷となった唯斗の腕だが、これでも治癒をかけながらであった上に、今もわずかに治癒をかけたため、かなりマシになっていた。それでもしばらくは動かないだろう。

だが、ガウェインはもはや剣を持つこともできないはず。


「はぁ…ッ!ガラティーンの炎で傷を負うなど、いつぶりでしょう…!感服、しました…人間なのに、ここまでやるとは…!」


この術式は相手の力に依存するため、自分の魔力量は関係ない。その代わり、自分が必ず傷つくため、死を覚悟するものだ。
熱によって通信は壊れており、もはや立香やカルデアとは繋がらない。もう、唯斗の言葉を聞くのはガウェインだけだ。


「しかし…これで倒せるとは思わないことです…」

「分かってる…一矢報いたかっただけだ…うぐぁッ、は、」


痛みに声が掠れる。だが言葉は届いたようで、ガウェインは驚いたようにこちらを見た。


「そのためだけに、身を投げたと…?焼かれると分かって身を差し出すなど、」

「最後まで諦めねぇ、繋いでくれた人たちのためにも、思ってくれた人たちのためにも…!それだけだ」

「……なるほど。御見それいたしました。ならば私も、最大限の敬意をもって、最後にあなたに報いましょう。大丈夫、その時は一瞬です。安心なさい、苦しみも痛みもないと約束します」


ガウェインは左手で剣を構える。当たり前だが、これで倒せるとは思っていなかった。ただ、最後まで戦うことが、唯斗にできる唯一の、そして最後のことだと思った。


「この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣!」


ガラティーンは空中に投げられ、高い天井のぎりぎりまで回転しながら飛んでから、窓から差し込む陽光に輝く。その輝きに、姉妹剣たる聖剣の光を思い出す。
爛れた右腕の先、手の甲に微かに浮かぶ残り一画の令呪を見て、目を閉じる。


「あらゆる不浄を清める焔の陽炎!」


会いたかった、話したかった、声を聞きたかった。

死にたくなかった。


「………アーサー、」

「……―――やっと呼んでくれたね」


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