神聖円卓領域キャメロットIV−12


ふわりと香る安心する匂い、耳に心地よい落ち着いた声。
幻覚かと目を開けた、そこには、こちらを見降ろして微笑むアーサーの姿があった。


「大丈夫、君は僕が守る」

「…アー、サー…?」


夢でも幻覚でもない、正真正銘本物のアーサーがそこいて、立ち上がって聖剣を構える。
突然現れた姿にガウェインは怪訝にするが、空中から戻ってきた剣を左手で受け取り、魔力を纏う。


「これは、世界を救う戦いである」


唯斗を守るように正面に立ちはだかったアーサーは、その剣を高く構えてから、勢いよく振り下ろす。見えないはずの剣は光輝き、その威容を存分に発揮する。


転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」


そして、世界線の異なる関係ながら姉妹剣たる二つの聖剣が、同時にその力を解放した。
今までにないほどの巨大な炎が魔法陣のように輝いて収束し、光線と化す。それにぶつかるのは、一振りとともに12の拘束をつけたまま放たれた超抜級の魔力光線。

それらの光線の衝突とともに、回廊は吹き飛び、大理石は昇華して猛烈な爆風が吹きすさんだ。

衝撃によって回廊が崩壊し、唯斗の体も宙に浮く。しかし即座に、アーサーが唯斗の体を優しく抱えて、無数の瓦礫を足場にして身軽に飛び越えていくと、安定した瓦礫の上に着地した。

そこに横たえられ、アーサー越しに見えた景色に愕然とする。


「……城が、」


キャメロット城の半分が、今の爆発によって吹き飛ばされていた。唯斗たちがいたのは崩壊した部分の端であり、アーサーのエクスカリバーがガウェインのガラティーンに押し勝って、そのエネルギーを玉座の塔の反対側に向けて放出したようだ。

これによって、王城は半分が崩れ落ち、玉座の塔が根元をむき出しにして屹立している。その根本部分に唯斗たちはいた。

まだ瓦礫が飛び散ってごろごろとあちこちで崩れているが、ここはもう崩壊が止まって安定している。


「…なんで、アーサーが……」

「君が呼んだからだよ」

「でも、アキレウスもギルガメッシュも呼べないのに、」

「僕はどうやら、こういうカルデアからの召喚であってもコスパがいいらしい。ほら、普段の特異点へのレイシフトだって、僕に元から備わった転移魔術があるからできていたことだっただろう」


そう、3人でぎりぎりのレイシフトにおいてアーサーを伴うことができたのは、アーサーが異世界を転移する術式をあちらのマーリンから付与されているからだった。今回はダ・ヴィンチが強引に着いてきているが、こういうことはあの天才だからできたことで、普通はアーサーのようなイレギュラーでなければ無理だ。

そして今回、カルデアからの一時的な召喚でアーサーを呼んだのは初めてだったため、てっきり今の魔力量では無理だろうと思ったのだ。それでもできたのは、やらなければできなかったことだった。


「……なおさら、事前に呼び出しておけばよかった…」


本当に、事前に呼び出しておけばよかった。そうすれば、魔力量が少なくとも呼び出せると分かっただろうし、それならあんな捨て身の魔術に頼らなくても済んだのだ。


「反省は後だ。今は生き残るのが先決だ。ガウェイン卿は…あぁ、まだ生きているね」


アーサーが気配を感じたようで、その視線を追いかけると、瓦礫の間からガウェインがよろめいて出てきたところだった。
だがもう瀕死だ。いずれ消失するだろう。むしろ、この惨状でよくまだ現界を維持しているものだ。


「ここまで、ですか…あなたは、異なる世界線の、我が王ですね…?」


ガウェインは唯斗たちの近くまでふらふらとしながらやってくると、膝をついてガラティーンに体重を預ける。それは忠節の礼ではなく、単にもはや立っていることができないためのものだった。


「その通りだよ、こちらの世界のガウェイン卿」

「…なるほど…最後まで、我が王の戦いに間に合わないどころか、異世界の王に討たれるとは…まさに、不忠の騎士には似合いの結末です…」

「私は卿を不忠などと思ったことはない。こちらの世界の私も同じだろう。この聖剣にかけて誓おう」


アーサーはガウェインにそう言葉をかけた。ガウェインはこちらをちらりと見て、ガラティーンを地面に置く。


「……異世界の我が王とはいえ、騎士王をサーヴァントとするとは…いえ、あなたなら、納得です…あぁ、ベディヴィエール卿が、せめて彼が、聖都が築かれたときにいれば…そうすれば王もお心が変わったかもしれないというのに…なぜ……」


そして、そう言い残して、ガウェインは光とともに消失した。

周囲には沈黙が落ちる。アーサーはこちらに向き直ると、改めて唯斗の体を優しく抱き起した。右腕に配慮して、左から抱えてくれている。


「マスター、しっかり。気を抜くと本当に死んでしまう」

「…、」


答えようとしたが、声が詰まり、なんとか息を吸ってアーサーの翡翠の瞳を見上げた。


「…おれ、今まで、ずっと一人だったはずなのに…一人なんて、慣れたはずなのに…」

「うん」

「一人でいるのが、下手になったみたいだ…」


唯斗は左側に感じるアーサーの鎧越しの胸元に顔を寄せる。ずっと一人だった自分が、誰かがいなくて寂寥感を感じ、誰かと会えて安心感を得るなど、そんな日が来るとは思ってもみなかった。


「っ、それでいいんだ、マスター…!」


アーサーはそう言って、唯斗を抱きしめる。怪我が痛まないようにしながらも、しっかりと、離れていた分の距離を埋めるように。


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