神聖円卓領域キャメロットIV−14


ようやく頂上に至ると、アーサーは聖剣で窓枠ごとガラスを砕き、玉座の間に突入した。
途端に吹き付ける風に目を閉じそうになるが、堪えて前方を見遣る。そこには、玉座の間という「部屋」は存在していなかった。

そこは、まるで荒波に浮かぶ小さな小さな島のようになった場所で、玉座の間らしき床だけが残っており、周囲はすべて海と化していた。荒れ狂う波に、しかし沈むことはなく、広い玉座の間の大理石の床はしっかりと浮かんでいた。固有結界のような場所だが、恐らくここが「最果て」なのだ。

そして、その空間の反対側から浴びせられる強大なエネルギー。それを、マシュが盾で一人受け止めており、その盾を中心に展開されているのは魔力が幻影となって浮かんだキャメロットの正門だった。


「これは…!聖槍の攻撃か!それを彼女が一人で受け止めている!」

「いつもの宝具展開とは違う、レベルの高いものだけど…でも、耐えきれるのか…?」

「とにかく前に」


アーサーの腕から降りて、唯斗とアーサーはすぐに立香たちの方へと走る。マシュの後ろで、腕を顔の前に掲げて風を防ぐ立香のところへと急いだ。


「立香!」

『唯斗君!後でお説教だ!』

「っ、唯斗!良かった、でも…!」


唯斗のバイタルから生きていることやこちらに向かっていることは、逐次ロマニが報告していたのだろう。驚いてはいないようだったが、立香は唯斗を見て安堵したのもつかの間、状況が極めて悪いのか、再び顔を青くして、一人耐えるマシュを心配そうに見つめる。
ダ・ヴィンチ、ベディヴィエールは驚いてマシュからこちらに視線を移す。隣にいるアーサーを見て、どこかホッとしたようにしているダ・ヴィンチだったが、隣にいるベディヴィエールはひどく驚いていた。アーサーもすぐに誰か気づいたらしい。


「話は後だベディヴィエール卿。それに私は異世界の王、この世界の円卓ともブリテンとも関わりのない、ただのサーヴァントだ。君の『罪』とも無関係の、ただの通りすがりだよ」

「……ええ、そのように」

「ほう、これはまた面白いことになっている。まさか、異世界の我が姿を見ることになろうとは」


すると、唯斗とアーサーに気づいたのか、光の向こうからそんな声が聞こえてきた。魔術によって視界を切り替えると、魔力越しに、向こう側が見通せる。これはサーヴァントの視界に近い。
聖槍の光の向こうには、一段高くなったところに玉座が鎮座しており、その前に立っている女性の姿が見えていた。あれが獅子王アルトリア・ペンドラゴン、この世界のアーサー王であり、聖槍を持ち続けたことで女神ロンゴミニアドへと変転した神霊だ。


「私は私を…いや、獅子王アルトリアを倒すべきではない存在だ。あくまで私はマスターを守るためにここにいる。君とは戦わない」


どうやらアーサーは、アルトリアと剣を交えるつもりはないらしい。できないのではなく、決着をつけるべきはこの世界の存在であるべきだ、ということなのだろう。きっとアーサーは、この事態を引き起こした様々な因果や真実を、すでに知っている。
それならば、唯斗が自分で戦うまで。アーサーは唯斗を守るためにここにいてくれるのだから。


「アーサー…そうか、分かった」

「すまない、マスター」

「いい。俺が戦えばいいだけだ」

「よかろう。だがどの道、その娘が耐え切れなければ終わりだぞ?」


そう言うと、アルトリアは聖槍への出力をさらに上げた。光は強くなり、周囲に響く轟音が波の音をかき消す。


「唯斗、アーサー王、このままじゃ押し負ける…!しかも、マシュも苦しそうだ、これじゃ…」


放たれる聖槍の光はどんどん強くなっていき、次第に浮かび上がる正門は電波の乱れるテレビのように歪み始める。立香は令呪の浮かぶ拳を握りしめて、劣勢な状況を悔し気に直視していた。
アーサーはマシュの後ろ姿を見つめる。


「そうか、彼女はギャラハッドの力を…しかし、ロンゴミニアドそのものの力が解き放たれたのでは、耐え切れないだろう」

「…俺、一緒に支えてくる」


そうして走り出そうとした立香を、ベディヴィエールはそっと止めた。


「いけません。人の身ではとても耐えられない。お気持ちは分かりますが、どうかここで待機を」


立香を止めたベディヴィエールに、立香も唯斗も驚いた。令呪を使ってともに支える、というのはあり得る選択肢だと思っていたからだ。それでもまだ足りないということなのだろうが、それにしても、なぜかベディヴィエールが前へと歩き出す。


「……待て、待つんだベディヴィエール卿。その体は…!」


それを見たダ・ヴィンチは息を飲んだ。この天才が信じられない、という表情をすることはなく、ダ・ヴィンチの想定や思考を大きく超えるようなことなどそうそう起こらない。

そして唯斗も、ダ・ヴィンチがなぜ愕然としているのか理解した。徐々に、その体にかけられた魔術が解かれているのだ。
エーテル体であるサーヴァントの体に見えるような高度な魔術が少しずつ消えていき、その真の姿があらわになっていく。決して見た目は変わらない。だが、だんだんと明らかになる体の様子に、唯斗も信じられないような気持になった。
なぜなら、あり得ない、と切り捨てた予想だったからだ。


「力まないで、サー・キリエライト。その盾は決して崩れない。あなたの心が乱れない限り」

「ベディヴィエールさん…?はい、こう、でしょうか」

「そうです。白亜の城は持ち主の心によって変化する。曇り、汚れがあれば綻びを生み、荒波に流されてしまう。けれどその心に一点の迷いもなければ、正門は決して崩れない」


そう語りながら、マシュの横に立って、盾の支え方を説くベディヴィエール。その体からは、次第に血が垂れて、大理石に点々と落ち始めていた。


「あなたは敵を倒す騎士ではないのです。その善き心を示すために、円卓に選ばれたのですから」


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