神聖円卓領域キャメロットIV−16


ベディヴィエールが語ったのは、この事態の始まり、本当の原点。
伝説では、ベディヴィエールはカムランの戦いを唯一生き残り、アーサー王とともに森へと逃れる。そしてベディヴィエールは、かつて聖剣と聖槍を与えた精霊のいる湖にほど近いその森で、アーサー王に聖剣を返還するように命じられる。ベディヴィエールは聖剣の返還がそのまま王の死に直結することを知っていたため、二度これに失敗し、三度目で湖の乙女に聖剣を返還するのだ。

だが、ここにいるベディヴィエールは、その三度目すら失敗した。戻った時にはもう王の姿はなく、アルトリアは残った聖槍だけを携えて、後世に付与された別のイングランドの伝説である「嵐の王」と化した。亡霊の王として、そして聖槍の化身として、やがてロンゴミニアドと同化して神霊にまでなってしまった。

ベディヴィエールはその罪の意識から、返還できなかった聖剣とともに、王を探す旅に出た。どこかへと消えてしまったアルトリアを探して、今に至るまで。


『バカな、それが本当だとしたら1500年だぞ!?1500年近く、アーサー王を探し続けたのか!?エクスカリバーの不死性は肉体の話であって、精神は不死じゃない!そんなに長い間、贖罪の旅を続けるなんて…そんな、残酷にもほどがある!!』


唯斗がこの可能性をすぐに捨てたのは、単に1500年以上に渡って生きるなどあり得ないという話だった。アガートラムの聖剣の輝きがマーリンの魔術によって隠されていたことで、唯斗はエクスカリバーの不死の力がベディヴィエールに与えられたことに気づくことはなく、それが正しい認識を妨げた。

そしてロマニの言う通り、肉体が不死であっても精神はそうではなく、どれほどの人間であっても1500年など耐えられるはずがない。


「ありがとうドクター・ロマン、でも、そんない悪いものではありませんでしたよ。それに、こうして最後の機会を与えられました。立香たちのおかげです」

「…思い出せない」


そこに、ふらつきながらアルトリアがベディヴィエールを睨み、聖槍で体を支えた。


「思い出せない、名前は知っている、だが、貴卿との記憶が、何一つ…本当にベディヴィエール卿なのか…?だがいい、円卓の騎士ならば、剣を捨て戻れ、我が声に答えよ」

「いいえ、それはなりません。あなたにとって私は討つべき敵です。あなたは私に、復讐しなくてはいけないのです。そして私には、あなたを止める義務がある。私は円卓の騎士ベディヴィエール!善なる者として、悪であるあなたを討つ者!」


ベディヴィエールは、ただアルトリアに生きていて欲しかっただけだ。それが罪なのか。アルトリアがベディヴィエールに復讐するべきことなのか。
唯斗は振り返ってアーサーを見上げたが、悲しそうに微笑まれただけだった。だが、それで十分だった。
どんな世界であっても、きっと騎士王は、ベディヴィエールを罪人などとは思わない。


「さあ、これが最後です、立香、唯斗。聖剣は善き心を持つ者の手で、あるべき者の手に渡るもの。異世界の我が王を知るあなたたちには、言うまでもないことかもしれませんが」

「……わかった。唯斗、俺はマシュとダ・ヴィンチちゃん、カルデアのサーヴァントを指揮するから、唯斗はベディヴィエールをお願い。聖剣のこと、俺より知ってるだろ」

「…あぁ、分かった。ベディヴィエール卿、最初で最後だけど、よろしく頼む」

「光栄です」


にっこりとほほ笑んだベディヴィエールに、唯斗は拳を握りしめてから、そっと開く。息をついて、立香の隣に並んだ。


「マシュ、やろう」

「はい、マスター!敵は獅子王、女神ロンゴミニアド…!この聖都、最後の戦いを開始します!」


立香もマシュも声が震えていたが、その目はまっすぐだった。これがベディヴィエールの旅の終わりであり、特異点の終わりとなる。


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