邪竜百年戦争オルレアンI−9
「…なるほど、よく分かりました。まさか、世界そのものが焼却されているとは…ですが今の私は…サーヴァントとして万全ではなく、自分でさえ『私』を信用できずにいる…それに、あの飛竜。認めたくありませんが、あの竜たちを操っているのは
私なのでしょう」
竜の魔女という呼ばれ方からそれは明らかだろう。しかしワイバーンなどこの時代のフランスに自然発生するはずがない。
唯斗は後を継ぐように口を開く。
「竜種の召喚は簡単じゃない。俺の家系にも、竜種の召喚は理論上可能としか資料がなかった。神秘の薄れた時代であればあるほど不可能になるから、俺たちの時代はおろか中世末期のこの時代だって不可能に近いだろ」
「でもそれができてるってことは…まさか、聖杯?」
立香の言葉に唯斗も頷く。通信からロマニも同意した。
『その通り。まだ憶測の域だけど、僕らも他人事じゃなくなってきたぞ』
「特異点Fでのことを考えれば、オルレアンのジャンヌが聖杯を使ってフランスをめちゃくちゃにしてここを特異点化したって考えるのが自然だろうな」
「なるほど…状況は概ね分かりました。マドモアゼル・ジャンヌ、あなたはこれからどうするのですか?」
マシュが尋ねると、ジャンヌは意志の強そうな表情となる。
「目的は決まっています。オルレアンに向かい、都市を奪還する。そのための障害であるジャンヌ・ダルクを排除する。主からの啓示はなく、その手段は見えませんが、ここで目を背けることはできませんから」
「ひとりでも戦う…なんというか、歴史書通りの方ですね、マスター」
「そうだね、本当に偉人って感じだ」
「当たり前だろ、フランス最大の偉人だぞ。ナポレオンだって適わない。あらゆる政体のフランスの統治者がジャンヌ・ダルクを模範としたんだ」
聖人としてヴァチカンに認められたのは20世紀に入ってからだが、それよりもずっと昔から、フランスの為政者はジャンヌ・ダルクを偉人として語り継ぎ、称え、自身も目標とした。フランスのリーダー像とは彼女そのものなのだ。
「…少し、照れてしまいますね。ただの農家の娘ですのに」
「そんなことはありませんよ。ではドクター、マスター。私たちの目的は一致しています。今後の方針ですが、彼女に協力する、というのはどうでしょうか」
「俺はそれがいいと思う」
『だね。ここはジャンヌと協力するのが最善だ。救国の聖女とともに戦えるなんて滅多にない名誉だし』
「そんな…こちらこそお願いします。どれほど感謝しても足りないほどです…ありがとう、マシュ、立香、唯斗。私は一人で戦うものだとばかり思っていました。こんなに心強いことはありません」
少し照れたようにしつつも、ジャンヌはしっかりとした声でもう一度「よろしくお願いします」と言った。
「…まぁ、この人数じゃまだ足りないけどな。一人も四人も変わらない相手かもしれない。ジャンヌ・ダルクがこうして召喚されたように、他にも聖杯によって呼び出されたサーヴァントがいる可能性がある。聖杯が時代を修正しようとしているのかは分からないが、本来、英霊は抑止力だ。この時代で起きていることを抑止しようとするセーフティネットとして他にも英霊が呼び出されているかもしれない」
『そうだね、唯斗君の言うとおりだ。というか、本当に詳しいな君は…』
こうしてジャンヌ・ダルクとともに、しばらく斥候に徹しながら情報収集と味方の捜索を行うことになった。この人数でオルレアンに突っ込むわけにもいかない。何か隙はないか、魔女のジャンヌがこちらを探してはいないか、そして味方となってくれそうなサーヴァントは他にいないか。やるべきことは山ほどあるのだ。