邪竜百年戦争オルレアンI−10
翌朝、一同はオルレアンへ向かって街道を北上した。目指すはオルレアン南方に位置する、ロワール川沿いの小さな田舎町、ラ・シャリテに向かった。1429年にジャンヌ・ダルクらが包囲戦を行って失敗している。現代フランスではラ・シャリテ=シュル=ロワールと呼ばれ、日本の清水寺で行われている「今年の漢字」のような「今年の言葉」が選ばれている街だ。
しかし、ラ・シャリテは炎上しており、唯斗たちが駆けつけたときにはすでに生存反応はなかった。その上、ゾンビと化した住民や、死体を貪るワイバーンがひしめいていた。なんとかそれらを撃破するも、その戦いによって唯斗たちが街に入る直前に移動していたサーヴァントがこちらを感知してしまったようだ。
『さっきのサーヴァントが反転した!数は…冗談だろ、五騎!!速度が速い、これはライダーか何かか…ともかく逃げろ!』
鋭くロマニが警告するが、硬い表情のジャンヌは首を横に振る。
「…逃げません。せめて真意を問いたださねば」
どうやらこの街の惨状を見て、彼女の義憤は敵に対する追求に代わろうとしているようだった。唯斗もロマニに賛成で、速やかに撤退するべきだと考えていた。
「無謀だ、撤退するべきだ…と言いたいところだけど…間に合わないか…?」
『もう間に合わない、マシュ、逃げることに専念するんだ、いいね!』
ロマニも同じ判断で、すでに会敵は避けられなかった。ジャンヌは毅然と立っており、瓦礫と化した古き修道院の街を背後に敵を待っていた。
唯斗は隣に立つ立香にそっと耳打ちする。
「サーヴァント五騎に対してこっちはサーヴァント二騎、まともに戦っても勝てない。ジャンヌや俺を放ってマシュと二人で逃げることに専念しろ、俺とジャンヌは自分でなんとかできる」
「……それは、自己犠牲じゃないよね」
「そんなほいほい身代わりになってたまるか。普通に痛いのは嫌だしな」
「分かった」
立香が頷いたところで、敵サーヴァントが到着した。瓦礫に覆われた石畳の道にゆったりと降り立つのは、プラチナ色の髪をなびかせる大柄な男、仮面に際どい服装の女、紫の長い髪と十字架の杖が特徴的な女、フランス近代の騎士階級の服装に身を包んだ青いハットの女のように見える騎士、そして真っ黒な鎧と短くくすんだブロンドの髪、黒い旗を風に遊ばせる女性。
旗をもった黒い女はこちら、特にそっくりの顔をしたジャンヌを見て息を飲む。
「…なんてこと、まさか、こんなことが起こるなんて。ねぇ、お願い、誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの。本気でおかしくなりそうなの。だってそれくらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!」
「あなたは…あなたは誰ですか…?!」
ジャンヌは認めたくないと叫ぶように聞いた。答えは明白だ。あれはジャンヌ、オルタ化したジャンヌ・ダルクだ。
ジャンヌ・オルタは下卑た笑みを浮かべて答える。
「それはこちらの質問ですが…そうですね、上に立つ者として答えてあげましょう。私はジャンヌ・ダルク、甦った救国の聖女ですよ、もう一人の私」
「…馬鹿げたことを。あなたは聖女などではない。私がそうでないように…いえ、それはもう過ぎたこと。それより…この町を襲ったのはなぜですか?」
「なぜかって?同じジャンヌ・ダルクなら理解していると思っていましたが…属性が変転していると、ここまで鈍いのでしょうか。この町を襲った理由?馬鹿馬鹿しい問いかけです…単にフランスを滅ぼすためです」
酷薄な笑いとともに、ジャンヌ・オルタはそう答えた。フランスを滅ぼす、そのために街を一つ一つ回って襲っているということか。
「馬鹿げたことを」と言うジャンヌに、ジャンヌ・オルタは睨み付ける。