神聖円卓領域キャメロットIV−20
ゆっくり目を開けると、コフィンが唯斗の覚醒を認識して自動的に開く。自分の足で出ると、ちょうど管制室からロマニたちが駆け寄ってきたところだった。
「おかえり!良かった、すぐに起きたんだね」
ロマニはホッとしつつ、ほかのスタッフとともに隣のコフィンからマシュと立香を出して床に横たえ覚醒を待つ。ダ・ヴィンチはすでに覚醒しており伸びをしていた。
マシュが起きたら、その盾に格納された聖杯を保管庫に収めて、すべて終わりとなる。
ダ・ヴィンチはロマニから預かったタブレットを見て、満足そうに頷く。
「第六特異点の修復を観測、13世紀中東は元通り。任務完了だね」
「第七特異点も古代メソポタミアだと分かった、ここからは座標特定フェーズだ。それまで、立香君たちにはしっかり休養してもらおう」
ロマニはまだ眠っている立香とマシュを優しく見つめながら、その目にはすでにこの先を見据えていた。古代メソポタミアと言えど、100年単位で時代が動くため、特定は極めて難しく、そもそもレイシフトそのものが成功率の低いチャレンジとなる。
ここからまたしばらく時間がかかることになるだろう。
「ぅぐ…ッ、」
そうして、この作戦の完了を実感した途端、右腕の痛みが急に戻ってきた。引き攣るような火傷の痛みだ。急な痛みと、もともと魔力が欠乏していたこともあり、床に膝をつく。
「唯斗君!?大丈夫かい!?って君、この火傷は…そういえばガウェイン卿との戦い!後で本当にお説教だ!とにかく今は、」
ロマニが周りを見渡したのと同時に、管制室にどたどたと足音が響く。
「マスター!!」
入ってきたのは、例によってサンソンとディルムッドだ。膝をついて痛みに声を上げることができないでいる唯斗を見て、ディルムッドはすぐに唯斗を優しく抱き上げた。サンソンは唯斗の右腕に治癒魔術をかけながら、ロマニを雑に振り返る。
「マスターのことは我々に任せて」
「あ、あぁ…いつもありがとう…」
ロマニの許可を得て、いやなくても構わなかっただろうが、二人の鮮やかな連携プレーによって唯斗は医務室に直行となった。
ベッドに横たえられると、ナイチンゲールまで現れる。
「急患ですね。右肩付近が浅達性II度熱傷、そこから先の大部分が深達性II度からIII度熱傷といったところでしょう。右肩がひどく痛みますね?」
「ッ、あぁ…」
ナイチンゲールが淡々と告げた火傷の状態に、客観的に知覚するとそれだけ気が失せそうになる。火傷は、重度であるほど痛みがないのだ。そして、痛いのは右肩だけ。腕の大部分は痛みがなかった。魔術回路が発する痛みが少しある程度で、皮膚の神経は機能を停止している。
「ミスター・サンソン、お手伝いしましょう」
「頼みます、ミス・ナイチンゲール。マスター、今回ばかりは二人がかりです」
「い、いや、サンソン、大丈夫だって、俺自分でも治癒魔術できるし、」
そう一応は言ったが、あのサンソンがこう判断しているということは、二人ですぐに治療を完遂させる必要があるということだ。つまるところ荒療治である。
ナイチンゲールはいつものうっすらとした微笑みを浮かべた。
「恐らく痛いですが大丈夫、安心して。切断してでも治しましょう」
「ディ、ディルムッド…!」
思わず助けを求めるようにディルムッドを見上げるが、ディルムッドは心配そうにしながらも、唯斗を安心させるように手を握る。
「大丈夫、私もそばについています。右腕が動かせない間は私があなたの腕となりましょう」
違う、そうじゃない。
頓珍漢なことを言い出したディルムッドにそう思いつつ、その後サンソンとナイチンゲールによる治療の末に、唯斗は痛みで気絶した。気を失う間際、唯斗はアーサーを素直に呼んでおけば良かった、と心の底から後悔したのだった。