揺れる心模様−3
アーラシュとのことがあった夜、夕食を届けに来てくれたエミヤを部屋に招き入れた直後にアキレウスがやってきた。
「あれ、アキレウスまで来たのか」
「おー、そうか、エミヤが晩飯担当だったのか」
エミヤがデスクにトレーを置いているところに、アキレウスも部屋へと入ってくる。何か用事だろうか、と見上げると、アキレウスは目を伏せて、おもむろに「悪かった」と謝ってきた。
「え、」
「特異点で、守り切れなかった。あのとき、奇跡的に騎士王を呼び出せてなきゃ、どうなってたか…情けねぇ」
どうやらアキレウスは、ガウェインとの戦いにおいて最後まで唯斗を守れなかったことについて、謝罪しに来てくれたらしい。謝ることじゃない、と言いたかったが、彼の戦士としての誇りも考え、それは心にしまう。
「…俺だって、ランサーであるディルムッドと、ライダーとはいえ槍を持って戦うアキレウスを同時にあてがったのは采配ミスだ。そういう合わせ方は訓練してなかったし、相手も長尺の剣だった」
「でもあれしかなかっただろう。あのとき呼び出せたサーヴァントは、騎士王のイレギュラーを除けば俺とディルムッドだけだった。どんな状況でも勝ってこそ一流だ」
それも事実だ。ガウェインの範囲攻撃を防ぐには、二人がかり畳みかけなければならない。槍はリーチが長い分、攻撃動作に一瞬の隙ができる。それでも、ディルムッドとアキレウスのそれはもう人間では意識できないような一瞬なのだが、ガウェインもまた、極めて強いセイバーだった。
もとよりセイバークラスはサーヴァントクラスの中でも最もレベルが高い。その中でも、数々の伝承が残る英雄でありギフトもあったガウェイン相手では、やはり一瞬の戦いになっていく。
そこに、話を聞いていたエミヤもアキレウスの隣に立った。
「私も謝るべきだろう、マスター。君に令呪をもらって宝具を展開したにも関わらず負けてしまった。戦闘でマスターを守れずサーヴァントとは名乗れんよ」
普段から助けてもらっている、という唯斗の反論を封じるようなエミヤの言い方に、唯斗も言葉に詰まる。
二人がそうやって謝罪を押し付けてくるのなら、唯斗も素直に言ってしまっていいだろう。
「ガウェインが強かったからしょうがないなんて言いたくない。俺のサーヴァントたちはみんな一流だし、めちゃくちゃ強いカルデアの精鋭部隊みたいなもんだ。だから俺もうまく戦いきれなくて悔しいんだ。それなのに謝られたら、俺はどうすりゃいいんだ」
今度は二人の方が言い返せなくなる。反論合戦をしているわけではないのだが、唯斗が二人の言葉を否定できないように、二人もまた唯斗の言葉に反論できないだろう。
だが喧嘩がしたいわけでもない、ここは唯斗の方で折り合いをつけさせることにした。
「…次はない。俺にとっても、お前らにとっても。次はあんな負け方も、奇跡に頼る勝ち方もしない。ちゃんと勝つ。次の特異点まで、そのつもりで訓練とかも付き合ってくれ」
「…あぁ、もちろんだ」
「承知した」
アキレウスとエミヤも唯斗の意図を理解して、頷いてくれた。
何はどうあれ、次は第七特異点、神代の真っ只中なのだ。これまで比ではない強敵が出てくるはず。あのような戦いを繰り返さないように努めていくだけである。
「じゃあ早速、晩飯の手伝いは俺が代わるぜ」
「結構だ。世話係に名乗り出なかっただろう」
「あの処刑人の先生がそもそもそんな募集をかけなかっただろ。聞いてたら俺も参加してたっつの」
「どちらにせよ回答は同じだがね」
話はまとまったはずなのに、途端にエミヤとアキレウスがバチりと火花を散らした。なぜいきなり着火したのか理解できない。
しかし、このしょうもない会話に、ようやく帰ってきたのだな、という感慨が湧いてきたのも、また事実だった。