揺れる心模様−5
帰還から四日で、唯斗は包帯が外れてようやく本格的に行動できるようになった。
地道に音声入力で書いていた特異点のレポートもしっかりキーボードで入力できるようになり、食事なども自分で食堂に足を運んでいる。
いつも通りの日常にようやく戻ったが、しかしアーサーとはあの晩以降、まったく会話がなかった。距離を置いている、というわけではなく、話すべくことがあれば話すが、互いにどこかぎこちなくなっていた。
少なくとも、唯斗から何気ないことを話しかけることはしなくなったし、向こうも同様だった。
そんな中、戦力強化が始まった。すでに立香は新たなサーヴァントの召喚を順次始めており、ベディヴィエールや三蔵、ニトクリスなどを加えている。その中には、なんとアルトリアもいたが、クラスはセイバー、見た目は特異点Fでのオルタに似ていた。エミヤが微妙な顔をしていたものの、円卓の騎士たちはもろ手を挙げて喜んでいた。
そして、唯斗が召喚を行う時間となり、召喚ルームで立香、マシュ、ロマニ、ダ・ヴィンチといういつものメンバーが揃う。
「唯斗君の召喚はいつも大物が来るからね、期待大だぞ〜」
ダ・ヴィンチは楽し気にしているものの、オジマンディアスのような曲者が来た時の面倒さは、今は正直勘弁してほしかった。
思いのほかアーサーとのことが心の中で重石のようになっており、余計なことを考えたくないというのが本音だ。
「御せなかったら意味ないって何度も言ってんだろ…」
「とか言って、ギルガメッシュ王やオジマンディアス王ともいい感じにやってるじゃないか」
ロマニもワクワクとしており、毎度毎度こんな感じだなと思いつつ、唯斗は召喚サークルに右手をかざして詠唱を開始する。
できれば、コミュニケーションに癖がなく、込み入ったオーダーを出さなくても力でなんとかなるような相手だといい。
そんなことを考えながら詠唱していたのが悪かったのだろうか。
術式が輝き、マシュの盾も呼応して青白く光る。直後、術式から魔力の霧が噴きだして部屋に満ちた。やはり広く深い霧となり、高位のサーヴァントだと分かる。
その霧の中から、ごつりという重たい足音とともに現れた人影。
「円卓の騎士、ガウェイン。今後とも、よろしくお願いします」
これが縁というものか。
愕然と、先日見たばかりの顔を見つめる唯斗と、固まる空気。ロマニたちも動きを止めていた。
「…?あなたがマスター、ですね?」
「あ、あぁ…」
声をかけられて、正面から向き合っている唯斗は慌てて応じる。見た目はまったく同じとはいえ、特異点とは当然記憶を共有していない。それに特異点のガウェインだって、礼儀は必ず守ってくれていた。
「雨宮唯斗だ、よろしく。応じてくれて、ありがとう」
「こちらこそ。大まかな状況は召喚に際して理解していますが…」
これは、ガウェインなりの気遣いだろう。まずは情報共有などから話をしていこう、という意思表示である。
しかし、脳裏にはすでに、あのときの炎がちらついていた。本当にもうだめだと思った、あの瞬間のことがフラッシュバックする。
そこに、立香が割って入った。
「サー・ガウェイン、俺はここの、一応正規マスターってことになってる藤丸立香。よろしくね」
「よろしくお願いします、マスター・立香」
「俺のサーヴァントには円卓の騎士もいてさ。トリスタン、ランスロット、ベディヴィエールと、あとはアーサー王もいるよ」
「なんと!それは素晴らしい。また彼らと肩を並べて剣を振るえる日が来ようとは」
にこやかに会話する立香とガウェイン。そこで扉が開き、トリスタンとランスロット、ベディヴィエールが入ってきた。
ちらりと立香を見れば、小さく頷かれる。どうやら、念話で呼んでくれていたらしい。こういう細やかな気遣いは、さすが立香といったところだ。
「久しいな、ガウェイン卿」
「やっとお出ましになったんですね」
ランスロットとトリスタンが相次いでガウェインの前に立ち、ベディヴィエールもやってくる。
実はベディヴィエールは、もともと座に昇っておらず、そのために特異点の円卓たちは驚いていたのだ。しかしあの特異点に至るまでの1500年におよぶ苦闘が人理に認められたのか、ベディヴィエールは座に登録され、こうしてやってきた。そうした経緯があるため、ベディヴィエールは第六特異点の記憶が完全に残っている。
「我々からカルデアや世界の状況について案内しましょう、サー・ガウェイン」
「本当に卿らがいるのだな…感慨深い。案内はありがたいですが、しかし…」
ちらりとガウェインはこちらを見る。やはり、きちんと唯斗とのコミュニケーションを図ろうとしてくれている。それを察せない円卓の騎士ではないため、ガウェインは少し困惑しているようでもあった。
ベディヴィエールは心得たように答える。
「マスターたちはつい数日前に特異点探索から帰還された身。少し休まれた方がよろしいでしょう」
「…なるほど。承知しました。では、よろしく頼みます」
円卓の騎士たちが召喚ルームを出て行き、扉も閉まったところで、唯斗はつい床にしゃがみ込んでしまった。力が抜けるなど情けないにもほどがある。
「唯斗、大丈夫…?」
「あぁ、ありがとな、立香。助かった」
「正直、唯斗ならこうなる可能性もあるなって思ってた。そういう星の元にいるじゃん?」
「どういうことだそれ…」
からかうように言いつつ、立香は優しく微笑んで唯斗を支えてくれた。立ち上がり、支え続けてもらうほどでもないため、自分の足でしっかり立ったのを確認すると、ロマニはホッとする。
「立香君の言う通りだ。唯斗君の引きの良さはそういうところがあるからね。命がけな場面は今まで幾度となくあったけれど、もう助からないという場面は君とガウェインとの戦闘だけだ。メンタルへの影響は軽く捉えてはいけない。無理はしないようにね」
「大丈夫だ、特異点のガウェインとは別人だし…あのガウェイン卿が来てくれたんだ、失礼なことはしたくない」
アーサー伝説になくてはならない存在であるガウェインが来てくれたのだ。唯斗だって、幼いときに大好きだったアーサー王伝説で、ランスロットと並んで好きだった騎士が来てくれたことは嬉しいと感じている。だからこそ、こんなしょうもないことで非礼をしたくなかった。