揺れる心模様−6


「…と、以上が唯斗殿と卿との戦闘の経緯です」

「聖都と獅子王…そんな苛烈な戦いがあったのですね…」


ベディヴィエールは、1500年ぶりとなる円卓の騎士たちの会話であるにも関わらず、特異点のことを差し引いても、久しぶりという感覚にならなかった。そもそも、あの特異点の騎士たちは変転しており、ベディヴィエールの知る存在とは別だ。

マスターとなった立香にカルデアへと召喚してもらえた喜び、往時の王と再会した僥倖、それらはもちろんそれだけでマスターに感謝するに足るものだが、ベディヴィエールにとって、立香も唯斗も、あの特異点で背中を預けともに戦ってくれた戦友であり恩人である。

そのため、念話で緊急の呼び出しを受けて召喚ルームに入ったとき、すぐに事態を察した。
トリスタンとランスロットも、特異点探索の様子はずっと確認していたらしく、立香の説明がなくとも理解した。
怯える唯斗の表情に、守らねば、と強く感じたのはベディヴィエールだけではないだろう。

ガウェインは特異点での自分たちの話を聞いて、複雑そうな表情を浮かべる。かの世界での自分の気持ちも分かってしまうため、非道な行いを糾弾しようにも正義を語ることができないのだ。

戦闘の様子そのものは見ていなかったため、特異点の説明をしたベディヴィエールからランスロットが引き継ぐ。


「私は管制室で霊体化して状況を見守っていた。向こうの私がマスター側についていたとはいえ、ガウェイン卿との戦いは避けられない状況だったからな。そして、卿の前に、唯斗殿は一人で残りマスターたちを先に行かせることを選んだ」

「たった一人で私と?」

「もちろん、唯斗殿のサーヴァントも一流、いや、粒ぞろいだ。エール神話の槍兵ディルムッド・オディナ、トロイアの英雄アキレウス、古代ウルク王ギルガメッシュ…卿がギフトで異常な強化を施されていなければ、十分に勝てただろう」


唯斗の選択は、危険だったが非合理的ではなかった。ランスロットが言う通り、唯斗の連れているサーヴァントは、サーヴァントの中でも一級のものだ。
通常であれば必ず勝てただろうし、日中であっても勝てた。しかし、あのガウェインにはギフトがあり、唯斗は極めて疲弊していた。


「唯斗殿の状況は芳しくなかった。そして卿は極めて強化されていた。結果、唯斗殿は魔力の枯渇によってサーヴァントを呼び出せなくなり、本当に一人で卿と対峙した」


視線を落とすランスロット。管制室で様子を見ていたとのことだが、状況は察する。絶望的な状況に陥った唯斗は、誰が見ても助からないと判断できるものだったはずだ。


「悲しい…とても悲しい時間でした。自らが負傷することを条件に、相手に自分以上のダメージを負わせる高度な魔術を展開し、自ら卿の炎を受けたのです…多くのサーヴァントたちを焼き消した炎に己の右腕を差し出すなど、一介の少年が『正常に』できることではありません…」

「……死を、覚悟していたのですね」


トリスタンも見ていたらしく、憂いを帯びた表情で頷く。唯斗は、死を覚悟してガウェインと戦い続けたのだ。


「…唯斗殿は非常に聡明な人物だ。置かれた状況から、助からないことは理解していた。人間がサーヴァントに戦闘を挑むことが無駄だとも。それでも彼は戦った。たった一人でも、どうせ死ぬと分かっていても。一矢報いることを選んだ」

「……どうやって助かったのです。そのような意思を感じて、私はなおさら加減などしなかったはずです」


その勇気に敬意を表して、一切の手加減などしなかっただろう。それはどの円卓の騎士も、同じ状況に置かれたなら同じ行動をとる。

だからこそ、こうして生きて助かっていることが疑問となる。


「唯斗殿は、アーサー王を呼び出した。この世界の、我々が知るお方ではない。異世界のアーサー王だ」

「魔力が枯渇していたのでは?」

「異世界の王は、世界間を渡り歩く術式を向こうのマーリンに与えられている。そのため、ご自身に世界を転移する力が最初からある程度備わっていて、カルデアのシステムというバックアップさえあれば魔力が少なくとも召喚できたようだ。その奇跡によって、辛くも唯斗殿は生き延びたのだ」


ガウェインは一連の出来事を聞き、ようやく唯斗の反応を理解したようだった。
トリスタンの言う通り、あのような戦闘を行って、平常心を保てるわけがない。


「…私の存在は、マスターにとってトラウマとなっている、そういうわけですね」


すべてを理解したガウェインの沈んだ声に、ベディヴィエールたちも言葉を発せなくなる。サーヴァントとして召喚されたからには何かを成したいと思うものだし、何よりベディヴィエールたちは円卓の騎士。
王でなくともマスターには忠誠を誓い、マスターのために剣を振るうのだ。その機会が訪れない現界に意味などなかった。


333/460
prev next
back
表紙へ戻る