邪竜百年戦争オルレアンI−11


「私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。主の声が聞こえない、ということは、主はこの国に愛想をつかした、ということです。だから滅ぼします。主の嘆きを私が代行します。それが死を乗り越えて成長した新しいジャンヌの姿。あなたには分からないでしょうね。憎しみも喜びも見ない振りをして、人間的成長をまったくしなくなったお綺麗な聖処女様には!」


確かに、神を信じて一国を救うほどの戦果を上げて見せた少女は、もはや人間的とは言えないかもしれない。しかし、ジャンヌは歴然と実在した人間だ。


「…あなたは、本当に私なのですか?」

「呆れた。ここまでわかりやすく演じてあげたのに、まだそんな疑問を持つなんて。この憤怒を、理解できないのではなく、理解する気さえない。ですが、私は理解しました。あなたはルーラーでもなければ、ジャンヌ・ダルクでもない。私が捨てた、ただの残り滓にすぎません」


まるでジャンヌがサブのような言い草だが、オルタ化している以上、ジャンヌ・オルタこそ残り物だ。ジャンヌから善性を刈り取ったような、そんな姿だ。
ジャンヌ・オルタは飽きたように表情から感情をなくし、背後のサーヴァントに声をかける。


「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘を始末なさい」


ジャンヌ・オルタに言われて前に出てきたのは、金髪の美丈夫と際どい格好の女だ。男の方がランサー、仮面の女がアサシンのようだが、どうやら狂化がかかっているらしい。しかも、召喚したのはジャンヌ・オルタだという。


「よろしい、では、私は血をいただこう」

「いけませんわ王様。私は彼女の肉と血、そしてはらわたをいただきたいのだもの」

「よろしい。では魂の方は私がいただこう!皮肉なものだ。血を啜る悪魔に成り果てた今になって、彼女の美しさを理解できるようになったとは」

「ええ。だからこそ感動を抑えられない。私より美しい者の血は、どれほど私を美しくしてくれるのかしら?」


ジャンヌのルーラーとしての資質が期待できない今、真名を明らかにすることは難しい。真っ先に血を欲する男と、美しさのために血肉を欲する女とくれば、なんとなく誰かというのは分かる。ダメ押しで、唯斗は二人に向かって呼びかけた。


「Szia、Buna ziua!高貴なシリアルキラー」


最初の言葉で女が、次の言葉で男の方がぴくりと反応した。今ので二人とも、こちらが正体に気づいたと理解しただろう。
最初にマジャール語で、続いてルーマニア語で唯斗は挨拶をしたのだ。これで、それぞれの出生地が分かるし、正体も確定する。


「…小賢しいこと。でも私たちの正体が分かったところで何になりまして?」

「…言葉遣いは丁寧だな?トランシルヴァニアの盟主だからか…いや、それともそれをモデルにしたただの悪魔か?血を啜る悪魔とやら。マジャールの誇りを捨てた悪魔に成り下がったのなら、悪魔らしく牙でも剥いてみたらどうだ」

「………男の血は浴びたことがないのだけれど、その綺麗な顔立ちなら試してみる価値はあるかしらねぇ」


煽る唯斗に、マシュは少し焦ったようにした。盾を構えるマシュに、後ろから小さく分かったことを伝える。


「男の方はワラキア公ヴラド3世、女の方はトランシルヴァニア公家バートリー家の血筋にあった女をモデルにしたホラー小説、カーミラの登場人物であるカーミラだ」

「っ!なるほど、今の会話だけでそこまで。さすがです」

「分かったところで弱点は分からないけどな。でも敵の攻撃方法は分かるな?」

「はい。串刺しと鉄の処女ですね」


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