揺れる心模様−8
「マスター二人体制でのガウェイン卿との戦闘で、君はしっかり、彼のギフトがある状態での実力を理解したはずだ。そして、自身の魔力量も、オジマンディアス王に令呪を送って宝具の展開を支援したことでかなり消費していたことも分かっていた。その状況で戦闘を続ければ、負ける蓋然性が高いということも。それなのになぜ、立香君たちと分かれて戦うことを選んだんだい?」
「迅速に獅子王を止める必要があった、それだけだ」
「つまり君は任務達成のために、自らの命を犠牲にする可能性が高い方を選んだと」
「勝てる可能性だって、合理的な範疇で存在してたはずだ」
唯斗は唯斗で折れるつもりがないらしく、また正論を突きつける。
オジマンディアスはそこまで状況を深く知るわけはないが、察することは容易だ。唯斗は、死ぬと分かって立香たちと分かれた。正論を言ってはいるが、きっと本能で勝てないと理解していただろう。
「じゃあなぜ、アキレウスが健在なうちに離脱しなかったんだい?エミヤが倒されたあと、もはや相性的にもあれ以上の戦闘続行はいよいよ勝ち目が薄かったはず」
「ディルムッドと合わせて戦わせた采配ミスだ、想定外だった」
「それなら、最後に一人で捨て身の魔術を行使してでも立ち向かったのは?」
ロマニは加減するつもりがないらしい。いよいよ追い詰められた唯斗は押し黙る。会議室にも沈黙が落ちた。あの優男のことだ、許してやりたいのは山々だろうが、次の第七特異点はさらに状況が悪いことが予想されるため、唯斗の意識を改めさせる必要があると考えているのだろう。
「ガウェイン卿ならば、君を放って獅子王のところに向かっただろう。でも君が継戦意思を示したからガウェイン卿は応じた。君は最後、たとえ死んででも戦い抜こうとしただろう」
オジマンディアスは唯斗の表情を窺う。ニトクリスとマシュを挟んでいるためあまり見えないが、見たところあまり負の感情を浮かべていない。というより、感情が見えなかった。凪いだ表情をしている。
「…立香さえ生きてれば、俺の生死は大局に影響しないだろ」
そして静かに言った一言で、今度こそ沈黙が満ちた。言葉を失った、という方が正しいか。
「…な、に言ってんの、唯斗…そんなわけないだろ!?」
最初に言葉を発したのは立香で、珍しく怒鳴った。唯斗の隣に座るため、唯斗の肩を思い切り掴んでいる。その大仰な動作に、全員がハッとしたように呼吸を取り戻す。
「せ、先輩…、」
「唯斗がいなかったらっ、」
「俺がいなくてもグランドオーダーはなんとかなる。今までも、これからも。本当は立香一人でもできることだ」
「ッ…!唯斗!」
さらに声を荒げる立香を、マシュが宥めた。マシュでなければ立香も落ち着かなかっただろうが、後輩に心配をかけさせまいと、必死に深呼吸して感情を落ち着かせようとしている。
それに対して、唯斗は淡々と言葉をつづけた。
「卑屈になってるわけじゃない。事実だ。立香と、立香のサーヴァントの力なら、フランスからキャメロットまで俺がいなくてもなんとかなったと思う。このグランドオーダーで重要だったのは魔術の素養じゃない、人理の担い手である人間としての素養だ。その点、立香は理想的だろ。もちろん、俺がいたから効率的になった場面はあった」
「効率的とか、そういうことじゃ…」
「分かってる。立香にこの話したら怒られるって、分かってたよ」
唯斗はずっと冷静だ。立香の腕を優しくどかし、その行動に立香は青い瞳に困惑を浮かべた。
「俺と立香の命は等価だ。でも、優先順位があるとするなら、家族や友人があって、帰るべき場所もあって、帰りを待って、愛して、必要としている人がたくさんいる、立香の方だ。俺はカルデアの外にそんな人間も場所もない」
「それは…っ、でも、」
「自己犠牲に酔ってるわけじゃないんだ。ただ、俺と立香なら、立香の方が元の世界に帰らなきゃいけないし、立香が死んだら立ち直れない人はカルデアの中にも外にもたくさんいるけど、俺が死んでも、カルデアの優しい人たちが悲しんでくれるだけだ。それでも、立香の力なら前を向いて進んでグランドオーダーを達成できる。だから、俺よりも立香の方が必要だし、生きて帰らなきゃいけない」
立香はそれ以上反論することができなくなってしまった。
人理を取り戻しても、唯斗にとって世界に居場所はない。必要としている人間の数で優先順位を決めるなら、確かに唯斗より立香の方が順位は上になるし、それは命が等価である以上、それなりに理にかなっている。
唯斗が言っていた通り、自己犠牲に酔っているわけではなく、唯斗は本当に、合理的に考えてこの結論に至ったのだ。
カルデアに来たばかりのとき、そして特異点で、唯斗はオジマンディアスに対して啖呵を切った。その言葉を、オジマンディアスは認めた。
自らを卑下しての言葉ならオジマンディアスも怒りを示したが、そうではないと分かり、さすがのオジマンディアスも口を噤んだ。
「…まぁでも、こんな俺でも死にたくないって思ったし、今もそう思う。だから次はあんなことしないし、自分の生存を第一に考えるようにする。心配させて悪かった」
唯斗は立香とマシュ、ダ・ヴィンチ、ロマニを見て謝った。これではいよいよ何も言えまい、とオジマンディアスは背もたれに深く腰掛けた。話はこれで終わるだろう。
ダ・ヴィンチは肩を竦めて書類を手に取る。