揺れる心模様−9


「……こればかりはここではどうしようもないよロマニ。さぁ、ロンゴミニアドについて話をして終わろう」

「…分かった。では、最後のランサー・アルトリアとの戦闘だ」


そうして話は最終決戦とロンゴミニアド、そして魔術王が自ら送った聖杯と第七特異点の話になり、それをもって会議は終わった。

唯斗はキャスターと魔術の訓練の約束があると言って先に会議室を出て行ったが、残りのメンバーの空気は重い。
オジマンディアスもさっさとこんな場を後にしたかったが、ニトクリスが沈黙を破った。


「…あの。同盟者…唯斗は、なぜあのようなことを…?居場所がない、などと言っていましたが、そんなことがあるのですか?魔術師の家系でしょう」

「その通りです、なぜマスターはあのような…」


ガウェインも、関係を改善できていない主のことを少しでも知りたいのか、ニトクリスの話題に乗る。視線は自然とロマニの方へと向かう。逡巡したのち、ロマニはため息をついて応じた。


「…あまり、言いふらすようなことではないけれど、そうだね。このメンバー、特にオジマンディアス王とガウェイン卿は知っておくべきだ」


そう言って、ロマニは唯斗の過去についてかいつまんで話し始めた。
召喚術の名家どうしのサラブレッドだった父親が、唯斗を生むと同時に命を落とした母を生き返らせるための死者蘇生術式の研究に没頭していたこと、その間唯斗はネグレクトされ、挙句の果てに術式の生贄にされかけたこと。
そして、その際にたまたまアーサーが巻き込まれて召喚され、父親はそれによって死亡し、唯斗はアーサーに助けられたのだという。


「唯斗君がああいう考え方をするのも、無理はないんだ。彼は今まで、必要とされるどころか、存在を肯定されたことすら一度もなかった。フランスで世話をしていた親族からも人種差別的な扱いを受けていたようだし、魔術協会にも当然居場所はない。魔術師はそんなことに心を動かされるような人間じゃないからね」

「そんな…!誰だって仏様になれる尊い存在よ!?不要な命なんてないわ!!」

「その通りです、自分の口で、自分より価値のある人間を優先させるべき、だなんてことを言うなど…そのような惨いことがあってよいのですか!?」


三蔵が案の定怒りを示すと、ニトクリスも拳を握って怒りをあらわにする。
唯斗がニトクリスのために令呪を送って危機に瀕したのだと、記憶でも今の会議でも知っていることもあり、あの少年のことをニトクリスもそれなりに大事に思っているようだった。
そうでなくとも、彼女の優しさを考えれば、きっと怒りを示したことだろう。


「…ずっと、唯斗はああやって考えてたんだね」


すると、立香がぽつりとそう言った。立香は事前にある程度唯斗の事情を知っていたようだったが、その末にあのような考え方に至ったのだと理解して、強い意志を瞳に浮かべていた。


「第三特異点で、なんで俺がエウリュアレを背負って走る作戦にあんなに反対したのか、ずっと分からなかったけど…そっか、本当に唯斗は、ずっと俺のこと守ろうとしてくれたんだ。俺の方が、生きて帰らなきゃいけないって当然のように思って」

「先輩…唯斗さんがいたから、私は怖くても安心して前に出られました。先輩をいつも守ってくださっていたから…あんなことを考えていたなんて…」


マシュは書類に記載された、唯斗の怪我の程度を示す図を指でなぞる。重度の火傷は、今も肩から二の腕にかけて少し跡が残っているという。


「…一緒にもっと頑張ろう、マシュ。唯斗に頼ってもらえるように」

「はい…!唯斗さんが、唯斗さんの安全と生還を優先してくださるように、もっと強くなります!」


前向きに決意する二人に、オジマンディアスは、これが唯斗の言っていた「自分が死んでも立香がいるならみんななんとかなる」という言葉の本意か、と理解した。確かに、立香は周囲を巻き込んで前へ、そして良い方向へ進める力がある。人としての力であり、魔術でもなんでもない才能だ。
それがあるから、唯斗が死ぬ分には大丈夫だと考えた。残念ながら、それは恐らく事実だろう。やはり冷静に、理性的に考えた上で、自身がそこまで必要な存在ではないと理解したのだ。
オジマンディアスですら、それはとても残酷なことだと思った。感情が暴走して周りが見えなくなってそういう結論になるならまだしも、そうではないのなら、それは厳然たる事実として突きつけられてしまう。
自分は不要な存在だと、はっきりと理性で理解してしまうのだ。


「…私は早急にマスターとの関係を改善させます。此度の現界こそ、マスターをお守りする剣となりましょう」


ガウェインも決意を新たに凛と告げる。そんな様子を見て、ロマニもダ・ヴィンチもいったんは安心したようにした。彼らなら唯斗を前向きに変えられると思っているのだろう。

しかし、オジマンディアスはすでに気付いていた。
唯斗は先ほど確かに謝罪こそしたが、「自分は必要な存在ではない」という考え方自体は、改めることも謝ることもしていなかったのだと。


336/460
prev next
back
表紙へ戻る