居場所は最初から−1


会議の数日後から、休養期間も終わって通常体制に戻った。シミュレーターでの訓練を中心に、小特異点の修復を行っていく日々だ。

しかし相変わらず、アーサーとはほとんど会話がないままで、そもそも特異点探索以外ではあまりカルデア内では関わっていなかったこともあって、簡単に会わずにいられるのだと実感した。

さらに、ガウェインとも変わらない。
なんとかガウェインとの関係を良くしようと唯斗もトライはしてみたのだが、シミュレーターでも小特異点でも、ほとんど話せなかった。ガウェインの方から話題は振ってくれるし、当たり障りないよう返せるのだが、目線を合わせられず、ガウェインの方をあまり見ることすらできない。

あの炎を見ていると、呼吸が乱れ、頭が霞がかってしまう。戦闘中にそれは危険であるため、唯斗は意図的に目線を逸らしていた。でなければ、サーヴァントより先に唯斗が戦闘不能になってしまう。

早くガウェインのことをなんとかしなければ。あの特異点で、もう少し唯斗の戦力にも火力が必要だということであの召喚を行って、この上なく適したサーヴァントが来てくれたのだ。そうでなくとも、ろくに使いもせず、また新たに召喚などするのは、あまりにガウェインに対して失礼で、とても唯斗にはできない。

ならば、ガウェインとの関係を改善させてちゃんと連携できるようにしなければならない。それなのに、心も体も言うことを聞かなかった。

そうやって、またガウェインを連れずにレイシフトしてカルデアに帰還し、食堂に寄ったときだった。

夕食を取ろうとカウンターでパスタを受け取り、適当な席を探そうとしたところ、ガウェインとランスロットがやってきた。二人ともマントも甲冑もしておらず、黒い肌着だけになっている。


「お疲れ様です、マスター」

「あ、あぁ…お疲れ、」


恐らくランスロットは緩衝材役だろう、近くの席を示す。


「良ければご一緒しても?ガウェイン卿はまだこの食堂の素晴らしい味を知らないのです」

「エミヤ殿は大変素晴らしい腕前だと聞いています」


にこやかな二人に、唯斗は曖昧に笑った。正直、たとえランスロットがいてもあまり変わらない。トリスタンやランスロットはカルデアの姿をよく知っていたため引きずっていないが、ガウェインはそうではないのだ。いや、ガウェインを通して、あの特異点の円卓の騎士たちを想起することすらあった。

だが断り方も唯斗には分からない。恐らくランスロットもそれを理解して声をかけてきた。少しずるい手だが、それくらいしないといけないと判断したということでもある。

どうしよう、と視線をトレーに下げたときだった。


「おや、マスター、御髪に埃が」


そう言って、ガウェインは唯斗の頭に手を伸ばす。咄嗟に、唯斗はそれを手で払いのけていた。頭を守ろう、という本能での防御反応が働いたのだ。

唯斗の手がガウェインの手を弾くのと同時に、バランスを崩して傾いたトレーから盛大に食器が床に落ちる。パスタを乗せた皿が床にひっくり返り、フォークが鋭い音を立てて転がる。

物音に、食堂にいた全員の目が向いた。そこにいた唯斗とガウェインを見て、恐らく噂になっていたことから、ほぼ全員が事態を察したことだろう。


「ッ、悪い、ガウェイン、」

「…いえ、お怪我はないですね、お洋服も汚れていないようで何より」


そう言って、ガウェインは膝を下ろす。そして落ちた皿に手を伸ばすのを見て、唯斗は慌ててその分厚い肩を掴んで止めさせた。


「やめろ、ガウェインっ」

「ここはお任せください、私にもこれくらいはできましょう。マスターは新しいものを…」

「そんなこと、お前がすることじゃないだろ!」


唯斗もしゃがんで、片付けようとするガウェインを必死に止める。ガウェインも、困惑するランスロットも、唯斗の言動が意外だったのかこちらを見つめていた。


「…頼むから、やめてくれ…あなたを軽んじたいわけじゃないんだ…!!」

「っ、マスター…」


もはや縋るようにガウェインの肩に手を置いて言った唯斗に、ガウェインも手を下げる。

唯斗はいったん立ち上がると、左手をかざす。外の南極の雪山をイメージする。


「ヴァズィ、」


唱えればすぐに皿もパスタも消え失せた。今頃、雪山のどこかに転移していることだろう。

そこにエミヤがやってくる。


「素人が掃除すると余計に汚くなる、全員下がっていなさい」

「…悪い、エミヤ」

「これ幸いと食事を抜かないように。サンソン、マスターを頼む」

「分かった。部屋に戻りましょう、マスター。食事は後でお持ちします」


エミヤの後ろからサンソンも現れ、唯斗をそっと食堂から連れ出す。静まり返った廊下に出ると、サンソンは労わるように唯斗の背中を撫でた。


「大丈夫、ゆっくりでいいんです。ガウェイン卿の度量に任せて、あなたはあなたのペースで向き合っていけばいい」


あまりの情けなさに、こんなことを言ってもらえるような立場ではないのに、と唯斗は拳を握り締める。サンソンの優しさすら、今は少し痛かった。


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