居場所は最初から−5


『唯斗君!?バイタルが急降下している…いったいどうしたんだい!?』


ロマニも異常を関知したらしい。視界が暗くなるが、意識は保っている。魔力の急激な使用によって、もともと不調だった体が悲鳴を上げたのだ。まさかここにきて不摂生が祟るとは思わなかった。

パスが弱くなり、これではアーラシュたちも力が出し切れなくなってしまう。


「…っ、くそ、アーラシュ、範囲攻撃から一体一体仕留める方法に替えてくれ。ディルムッド!なるべくこっちに近いところ、で、」


ふらりと力が抜けて、一瞬頭が白くなる。すぐに唯斗は爪を腕の肌に突き立てて痛みで強制的に意識を戻す。


「マスター!?大丈夫ですか!?」


ディルムッドがすぐに駆け寄ってきた。しかし、ワイバーンが迫ってくる。
アーラシュは一撃を重くして確実に接近するワイバーンを仕留めているが、やはり数が多く何匹か迫ってきた。

すぐにディルムッドが対応して倒していくが、空はワイバーンの羽に埋め尽くされ、その羽音と風圧が森に満ちる。


「ッ、マスター!避けるんだ!!」


すると、アーサーが大声で呼びかける。無理やり薄暗い視界で見ると、ドラゴンが急速に接近してきていた。あちこちに剣で切られた傷があり、アーサーから逃げてきたのだと分かる。

避けようとしたが、体に力が入らない。しかし反対側からは別のワイバーンが迫り、アーラシュがそれを打ち止めたところだった。


「マスター!」


そこに、ディルムッドがやってきてドラゴンを2本の槍で止める。ディルムッドをかみ砕こうとする大きな口の中にあえて入って、槍によって上顎と下顎を突き刺して動きを止めさせる。


「っ、ディルムッド…!」

「アーラシュ殿!炎を出す前に頼みます!」

「…分かった。マスター、悪いな。セイバー!頼んだぞ!」


すると、アーラシュは輝く光の矢を弓にあてがう。それは、あの特異点で見たものと同じだった。


「なッ、アーラシュ!!」

「俺はカルデアに戻るだけだろ。でも悪い、嫌なこと思い出させるな。ご照覧あれ、とは言えねぇが…これで仕留める」


ギリギリまでワイバーンを仕留めたアーサーは、すぐにこちらへ駆けよると、唯斗を抱き上げて走り出す。

その背中越しに、宝具を解放するアーラシュの後ろ姿が一瞬だけ見えた。すぐに光に包まれ、ドラゴンと、その動きを止めていたディルムッドとともに、轟轟たる爆発音とまばゆい光が辺りを包んだ。

アーサーに支えられ、なんとか地面に降り立ったときには、ドラゴンと多くのワイバーンは消え、そしてアーラシュとディルムッドもこの空間でのパスが切れていた。


「っ、くそ…ッ!!」


特異点でのことが思い出され、癒えようとしていた傷が抉り出されたようだった。
カルデアに戻るだけと言っても、体が爆発四散する感覚は残る。ディルムッドもだが、「死」の感覚は味わうのだ。


「マスター、残りを仕留めてくる」

「……頼んだ………」


残るワイバーンは数匹、アーサーが仕留めるためにその場を離れ、数分でことが済んだ。アーラシュとディルムッドのおかげで一気に駆逐できたのは確かだが、あんな方法を取らなくても勝てたはずだった。


『ワイバーンの群れ全滅を確認。唯斗君、いったんカルデアに戻すよ』

「…分かった。帰投する」


唐突に静けさを取り戻した森はめちゃくちゃになっている。その光景を見ながら、重力が薄れていくのを感じた。

アーサーは戻ってこない。こちらを気にしてか、唯斗を一人にしておいているようだ。単に気まずいだけかもしれないが、もしかしたらアーサーの方はそもそもそんなことを考えてすらいないなんてこともありえる。


「……情けな」


こんなことをうじうじと考えて、アーサーが隣にいない寂寥感を感じている自分に腹が立つ。
何より、自分の不調のせいで、アーラシュとディルムッドに余計な感覚を味合わせてしまった。特異点の固定化を防ぐことには成功したが、本来の目的である修復とリソース回収は果たせていない。小特異点であるため帰投できるのが不幸中の幸いだ。

あの夜、唯斗に最期に礼を言って消えていったアーラシュがこれを見たらどう思うだろう。きっと気にせずあっけらかんと笑ってくれるのだろうが、こんな情けない姿、いつ誰に失望されてしまってもおかしくはない。

今すぐに吐いてしまいたい、そう思いながら、カルデアに帰還した。


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