居場所は最初から−6


ワイバーンの群れが突然出現した特異点は、二日後に再び当初の目的であるリソース回収のためにレイシフトが行われることになったが、その前日の夜、ロマニが唯斗を予備検査するために医務室に呼び出した。
夕食を少しだけ食べてから赴いた医務室にはロマニがおり、ナイチンゲールとサンソンの姿はなかった。


「今は僕と君だけだ。さ、そのベッドに横になってくれ」


ロマニに指定されたベッドに横たわると、ロマニは腕や腹、頭に何やらパッド状の装置を取り付けていく。コードに繋がれたそれらは、コフィンと同じ項目を計測するものだという。
PCで計測結果を確認したロマニは、ため息をついた。


「…やっぱり、バイタルは芳しくない。恐らく、これでコフィンに入っても成功率の低さによってレイシフトは強制停止されてしまうだろう」

「え…そ、れは、明日になったら回復するようなもんじゃないのか」

「回復しても基準に達しないということだ。明日のオーダーは立香君に代わってもらおう」

「そんな、」


そんな必要はない、と言おうとしたが、コフィンの仕組みはよく知っている。ロマニが言うのなら、これは端的に事実だ。食い下がっても意味がない。
黙ってしまった唯斗を見て、ロマニは装置を外していく。


「なぜここまでバイタルが下がっているか、心当たりはあるかい?」

「……、」

「事前にエミヤやサンソンに確認していたけれど、食事もきちんと取っていると聞いている。そのわりに体重は落ちている」


当然だ、食べても吐いていたのだから。食べていないのと同じである。
疲れやすくなり、立ちくらみも増えた自覚はある。だから、正直バイタルが下がったことそのものは驚きはなかった。
しかし、まさかレイシフトできなくなるほどまでだとは思っておらず、体の中がすっと冷たくなるような、そんな感覚になった。


「ガウェイン卿とのことがあるのは知っている。アキレウスとヘクトールからも、ちょっといざこざがあったと報告を受けた。第六特異点での戦いはとても厳しいものだったから、メンタル面への影響はあって当然だ。だから、きちんと教えてくれ。何か、困っていることや悩みは?ここまでバイタルが下がるほどの何かを」


言ったところで、これは唯斗の心の中の問題だ。それに、アーサーとのことは人に言いたいことではない。
だが早く状況を改善させなければならないことも確かだ。こうして、ディルムッドやアーラシュに犠牲を強いる形になってしまったのだ、早急に手を打つ必要がある。

とはいえ、ロマニは激務の中にいる。第七特異点の時代はかなり絞ることができているが、そもそも西暦以前の時代へのレイシフトはそれ自体が極めて難しい。
今はとにかく、その調整や実証で寝る間も惜しんでやっている。そろそろカルデアの時空が2016年に到達するのも時間の問題である。
余計なことでロマニの仕事を増やすことはしたくなかった。


「…大丈夫、ロマニが言った通り、まだちょっと第六特異点のことを引きずってるだけだ。疲れがとれてないっていうか…だから、少しすれば回復する。迷惑かけて悪い」

「…、君がそう言うなら…プライベートなことだから、あまり詮索はしないけれど、看過できなくなったら、ある程度君の意志より優先する手段を執ることも忘れないでくれ」

「…分かった」


場合によってはマスターから外す、ということだろうか。サーヴァントの退去はないだろうが、オーダーに参加しない形になるかもしれない。
そうなってしまえば、唯斗がカルデアにいる意味などない。いよいよ不要だと切り捨てられる一歩手前まで来てしまったのだ。

今までずっと一人で生きてきたのだから、こんなことで悩むべきではない。


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