居場所は最初から−8
レイシフト基準に満たないバイタルとなったことで、ダ・ヴィンチとロマニは状況を危惧したのか、唯斗とガウェインを呼び出した。
場所はシミュレータールームで、二人が何を考えているのか察する。さらに、二人と一緒にサンソンも同席していた。
唯斗としても事態の解決のために考えていた手段だったため、異論はない。
「君たちに来てもらったのは他でもない、そろそろ唯斗君のメンタル面を本人たちに任せておけなくなったからだ」
ダ・ヴィンチはシミュレータールームにやってきた唯斗とガウェインを前にそう告げる。ロマニはシミュレーション用のコフィンを操作し終えてこちらに向き直る。
「唯斗君のことだから、これも手段としてあっただろう」
「そろそろ声かけるかって思ってた。異議はない」
「何をするのです…?」
ガウェインは首をかしげている。少し距離を置いて立つ唯斗が答えた。
「俺の深層心理をシミュレーターに投影して仮想レイシフトするんだ」
「マスターの心の中に…?良いのですか、最もプライベートなところでしょう」
「そういう段階なんだ。見苦しいものを見せるかもしれないけど、頼む」
それくらいは目を見て言いたいと唯斗はガウェインの顔を見上げる。ガウェインと非常に久しぶりに目線が合った。かち合った視線に、ガウェインはそれだけで嬉しそうに微笑んだ。
「承知しました。特異点の私と別個の存在であったとしても、等しく私であった以上は責任を果たしましょう」
二人の同意を得たロマニは頷いて、起動装置の前に立つ。ダ・ヴィンチもその隣に移動して、唯斗とガウェインはコフィンに向かう。
「マスター、何かあっても僕が対処しますのでご安心を」
「ありがとな、サンソン」
サンソンが同席しているのは、記憶のフラッシュバックによる唯斗のバイタルの急降下に対して応急処置をするためだ。
「君のプライベートに配慮して、こちらは唯斗君のバイタルだけを確認する。音声を含めて、シミュレーター内に再現された情報はこちらでは感知しない。ただ、もしも緊急停止が必要になったら非常停止コードをそちらでかけてくれ」
「了解。ロマニもダ・ヴィンチも、迷惑かけて悪い」
「まずはこれを迷惑かけていると思うのをやめるところから改めて欲しいんだけどね」
ロマニは苦笑すると、二人がコフィンに入ったのを確認して装置を起動する。稼働音とともに、コフィンの蓋が閉まり、レイシフトのときにも似た無重力感が体にかかる。
そしてふと目が覚めると、そこは自室だった。
「……、は、?」
見慣れた自室がそこにあって、唯斗は思わず驚いて声を出す。
てっきり、第六特異点の13世紀中東が再現されると思っていた。それなのに、そこはまごう事なきカルデアだ。演算がエラーを起こしたのだろうか。
「マスター、」
ベッドに座る唯斗に声をかけてきたのは、隣に立つガウェインだ。このガウェインは一緒にシミュレーターに入っているガウェインだろう。
「ここはカルデアの、マスターの自室ですね。いったいなぜ…」
「…分からない。エラーだとしても、どういうエラーなのかもう少し確認しないとフィードバックできないから、ちょっと歩いてみよう」
「はい」
ベッドから立ち上がって、唯斗はガウェインとともに外へと向かう。思えば、ガウェインが自室にいるところを見るのは初めてだ。当たり前だが、ガウェインは唯斗の部屋にやってきたことはない。
廊下に出て、まずは人のいるであろう食堂や管制室がある中央棟へと向かう。
そして歩き出してすぐに、廊下でキャスターのギルガメッシュと出くわした。ギルガメッシュはこちらを見ると、不愉快そうに顔を歪める。
「穀潰しがよく平然と歩いているものだ」
「……え、」
「貴様と会話する時間も惜しいわ」
そう吐き捨てて、ギルガメッシュはつかつかと歩いて行った。
言葉の衝撃が遅れてやってきて、唯斗は詰めていた息をゆっくり吐き出した。
「…、マスター…」
隣のガウェインが気遣わしげに声をかけてくるのを無視して、唯斗は足を前に進める。
少し後ろを歩くガウェインの足音が廊下に響く。
何が起きているのか、なんとなく分かった気がして、同時に、理解したくないと本能が叫ぶ。