邪竜百年戦争オルレアンI−12


ヴラド3世は、現在のルーマニア南部にあたるワラキアを治めていたワラキア公で、ちょうどこの時代に生きていた人物だ。ビザンツ帝国を崩壊させトルコを支配しようと迫っていたオスマン帝国に対して、キリスト国家の先鋒として戦い続けた。その戦いにあって、オスマン兵数百人を串刺しにして林のようにして戦意を喪失させた逸話などが伝わるほか、政敵であったハンガリー王によってデマが流され、人肉を食べて血を啜ると語られた。
ルーマニア南部の言葉では、名前の末尾にaをつけることで子供を意味する。ヴラド3世の父はドラゴン騎士団に叙せられたことからドラクルと呼ばれ、ドラクルの子というルーマニアの名前が英語でドラキュラとなった。

一方、カーミラは同名の物語に登場する美しい女吸血鬼で、現代まで語られる吸血鬼の一般的な設定を決定づけたとされる。
カーミラのモデルは、これも現在のルーマニア北西部、長らくハンガリーの領土であったトランシルヴァニアにおける名家だったバートリー家の貴族の女性、エリザベート・バートリーであり、現在はスロヴァキアに位置するチェイテ城で多くの女性たちを殺し、その血を浴びるなどしていた。

英霊として召喚できるのは実在した人物だけでなく、広く知られる物語の登場人物も幻霊として召喚できる。
16世紀、オーストリアを中心とする神聖ローマ帝国とオスマン帝国との間で難しい舵取りを迫られていたハンガリーのマジャール人貴族たちは連合国家のような体裁を成しており、バートリー家はその筆頭だった。その中でも教養ある人物として知られていたエリザベートなのか、それともエリザベートをモデルとした幻霊のカーミラなのか。
そこでヴラド3世の言葉から、悪魔に成り下がったという表現にヒントを見いだして、わざと煽った。その煽りが利いたということは、カーミラだろう。

唯斗が真名を突き止めたはいいが、戦ううちに、カーミラとヴラド3世は仲間割れのように口論を始めた。二人まとめて戦えばいいものを、わざわざ向こうは各個攻撃をしてくる。
マシュとジャンヌでなんとかヴラド3世と戦い、倒せずとも押し切ることに成功。
続くカーミラも耐えしのぐと、カーミラは仮面でも分かるように眉をひそめた。


「あなた、変な匂いがするわ」


マシュを見てそう言ったカーミラに、ジャンヌ・オルタは「デミ・サーヴァントでしょう」とすげなく返す。そして、呆れたようにジャンヌ・オルタはため息をついた。


「そして私の失策でした。あなたたちは他のサーヴァントより残忍ですが、だからこそ遊びが過ぎる。あの小娘たちの始末は、遊びのない残り三騎に任せるとしましょう」

「待て。私もカーミラもともに本気ではない。聖女の血は我らのものだ。血の輝き、血の尊さを微塵も知らぬただの処刑人どもに譲るなど」

「黙れ。貴様は彼女の血を吸うことを望むあまり、無意識に力を加減した。人間的成長がまるでない。私、そういう我が儘は嫌いなんです。だから反省して、今回は引っ込んでいてくださいね」


有無を言わせず、ジャンヌ・オルタはカーミラとヴラド3世を下がらせる。やはりあの二人は生きたまま血を得るために殺さないよう手加減していたらしい。
それでこちらはこれだけ疲弊しているのだ。たまったものではない。

マシュはぐっと盾を握りしめると、僅かに背後の立香を振り返る。


「マスター、一か八か、一点突破に賭けます。しっかりと後ろに着いてきてください」

「…総力で各個撃破か。無謀だな。でもそれしかないか。俺は強化をかけられる、立香は任せた」

「はい、唯斗さん」

「マシュ、頼む」


立香にマシュは頷いて、こちらに襲いかかる青いハットの騎士と十字架の杖をもった女の攻撃を受け止める。その後ろからはワイバーンまで迫っていた。
やはり無茶だ。唯斗は両足に強化魔術をかけて俊敏に動けるようにはなっているが、さすがに逃げ切ることはできない。
かなり厳しい状況は、正直、最初に言った通り唯斗が時間稼ぎするしかないかと思われた。


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