居場所は最初から−12
ガウェインはさすがに理解が早い。
そう、ガウェイン自身が怖いわけではないのだ。恐らく、ガウェインを通して、唯斗は己の内側に元からあった恐怖や不安が想起されることに、極めて強いストレスを感じていた。
ガウェインのせいではない。なんなら、特異点のガウェインのせいですらないかもしれない。誰であっても、同じような心の動きをしたのなら、同じ結果になっていたかもしれなかった。
申し訳なさがさらにこみ上げてきて、唯斗は落ち着いていた涙腺が再び緩むのを感じる。一度壊れてしまった心のダムは、もう修復することができなかった。
「ガウェインのせいじゃないんだ、全部、俺のせいだ、俺の弱さのせいなんだ…不完全な出来損ないの人間もどきとして生きてきた俺の、今までの俺への罰だ…ッ!そのせいで、俺はガウェインに向き合えなくて、せっかく来てくれたあなたを、俺は、」
「そのようにご自身を責めては……」
「自分が悪いって酔ってるんじゃない、きっかけは全部俺の内心の問題なんだ、本当に…!ガウェインに向き合えないだけじゃなく、ヘクトールのこともずっと引きずって、余計な罪悪感を感じさせてる、あの、トロイアの英雄にこんな、こんなこと…!」
ぎゅっとガウェインの黒い肌着を掴む手に力が籠もる。目元から溢れた涙が生地に染みていくのが分かる。
「情けねぇ、俺は本当に、っ、ぅっ、ほんと、に…ディルムッドにも、アーラシュにも、死ぬ感覚味合わせて…ギルガメッシュにも、エミヤにも失望された…っ、俺、おれ、なんで、」
「マスター、」
「…なんで、俺が、ガウェイン呼び出しちゃったんだろ、ごめん、ごめんなガウェイン、本当にごめんッ、ごめんなさい…!せめて、立香に召喚されてれば、弱くてごめん、情けなくてごめん…っ、」
情けなくも泣き崩れる唯斗を、ガウェインは怒ることなどなく、むしろ優しく頭を撫でた。後頭部を大きな手の平が撫でてくれる感覚に、唯斗は赤くなっているであろう目で見上げる。
ガウェインは目が合うと、穏やかに微笑んだ。
「いいえ、やはりあなたに召喚されて正解でした。それほどまでに苦しんでいるのに、それでもあなたは、私の尊厳を守ろうとしてくださっている。誠実で優しい御方だと聞いていましたが、本当にその通りです」
「…そん、な、俺は、」
「何よりも、こうしてあなたを支えることができる。私だから、あなたをこうして泣かせてあげることができたのでしょう。決してそれは私の力ではない故に、誇ることなどありませんが、単純に、あなたをお守りすることができる立場として現界することができて良かったと思います」
ただの偶然であったことではあるが、それでもガウェインだから唯斗はこうしてみっともなく縋ることができたのは事実で、それをガウェインは良かったと言った。
「私は何があろうとあなたの味方です。必ずお守りしましょう。どのような些細なことでも申しつけてくださいね」
「ガウェイン…、」
「さぁ、まずはとにかく休むことからです」
ガウェインはそう言うと、美しい緑色のマントを外して、唯斗にかける。そしてそのまま唯斗を抱き上げた。
あまりに自然なお姫様抱っこであったため、唯斗は何が起きたのか気づかず、目を点にする。
「…え、」
「お部屋へ向かいましょう。あぁ、先に軽く胃に優しいものを入れた方がいいかもしれませんね」
ガウェインはそう言ってトイレを出て廊下を歩き出す。
場所を変えて、まずはゆっくりと心を落ち着かせるところから、ということだろう。それは理に適っている。
呆気ないほどに、唯斗はガウェインの顔を見られるようになっていたし、こうして接近しても触れていても、問題なくなっていた。
明確に、唯斗は、ガウェインのことを守ってくれる存在だと認識しているのだ。
心の内を明かして、いろいろな姿を見せてしまったからということもあるだろうが、ガウェイン自身の包容力もあるだろう。
涙腺と同じで、唯斗はつい、普段なら言わないようなことを口にする。
「…食堂行きたくない。やだ」
様々なことが起こった食堂には、近寄りたい気分ではなかった。心がざわついてしまうのだ。
「……そうですか、ではまず部屋へ向かいましょう。お食事は私がお持ちします」
「ごめん、手間かけさせて」
「なんの。お上手ですよ、その調子でなんでも我が儘を言ってください」
しょうもない我が儘を口にして褒められるなどかつてなかったことだ。
温かいマントに包まれた状態の安心感もあって、いつしか唯斗はここ数日で一番心が安らいでいた。