居場所は最初から−15


ガウェインを待ちながら、唯斗はベッドの縁に座って空中を見つめていた。
泣いたことで目元が疲れており、感情があまりに激しく動いたものだから、ひどくだるい。

すると、扉が自動で開いた。鍵をかけていないため、外からすぐに開く。カルデアは内側からしか鍵がかからないのだ。


「入るぞ」

「オジマンディアス…?」


なんと、入ってきたのはオジマンディアスだった。こうして部屋を訪れてきたのは初めてだ。
オジマンディアスは唯斗の前に立つと、高い位置から見下ろす。


「ニトクリスから話は聞いた。余の言葉がお前に必要だろうと感じたそうだ。断ることもできたが、珍しく感情を荒立ている様子だった故、余自ら足を運んでやったのだ」

「え、ありがとう…茶でも飲むか…?悪い、ファラオが部屋来たの初めてで…」

「ふははは!ファラオの来訪を経験する者などそうおらぬわ!」


オジマンディアスはそう笑ってから、おもむろに、唯斗の頬をするりと撫でた。浅黒い肌の指が触れて、その熱に驚く。


「っ、オジマンディアス…、」

「……まだ礼を言っておらなんだな」

「特異点のことか…?」


オジマンディアスは頷く。聖杯がカルデアに回収されたことで、こちらのオジマンディアスは特異点のオジマンディアスの記録を完全に継承したという。
そのため、どこか態度がレイシフト前と違っていた。丸くなったというか、距離が近くなったと思う。


「お前の令呪によって、余もニトクリスも座に無事に戻った。霊基の破損がなかった故にな。お前の言うとおりの展開となり、案の定、ニトクリスは無理をしようとした。あやつは…冥界を支配するには優しすぎる」

「…ッ、」


まさかオジマンディアスから礼を言われるとは思わなかった。目を見開いた唯斗に、オジマンディアスはニヤリとする。


「瞳を見せよ、その美しき地下水を湛える水鏡のような泉を」

「っ、そんな綺麗なもんか…?」

「あぁ。そなたの性根のように淀みなく、穢れなく、どのような砂嵐を受けようと元の水面を取り戻すオアシスの泉だ。お前が人理を繋ぐと決意したからこそ、余も助太刀してやろうと思ったのだ。余を動かしてみせたその度胸、誇るがいい」

「ッ…!」


あのオジマンディアスが認めてくれるような言葉をくれた。ひどく自尊心が傷つき、自信をなくしていた唯斗に、こうした言葉が必要だとニトクリスが判断して、それにオジマンディアスが応じてくれたのだ。

そうした言葉に対して、言葉以上に心が動いている自覚もあった。認めてくれた喜びだけではない、何か、もっと重要で核心に迫る「何か」が満たされる感覚だ。

ぽろりと再び目から水滴が落ちて、オジマンディアスの指に滑る。擦って止めようとしたが、オジマンディアスはそれを止めて、唯斗をベッドに押し倒す。

突然視界が反転して、天井とオジマンディアスの精悍な顔が視界に広がった。


「え、」

「興が乗った。このまま余の寵愛をくれてやろう」

「な、何言って、」


唐突な展開に固まっていると、また扉が開いた。例によって鍵がかかっていないため、外から入ってくる人影が見えた。


「…何をしているんだライダー」

「フン、遅れてやってきたかと思えば」


入ってきたのは、アーサーとギルガメッシュだった。いったいなぜ、と思っていると、ベッドに乗り上げていたオジマンディアスは唯斗の上体を強引に起こして抱き締めてくる。


「わ、」

「この通り、貴様らなどおらずとも余だけで十分だ」

「悪いがあなたをマスターと二人にするわけにはいかないな」


アーサーは冷えた声で部屋に入りながらオジマンディアスと対峙する。
その後ろで呆れたようにしているギルガメッシュを見て、唯斗はびくりと肩を揺らしてしまう。食堂で叱責されて以来となるため、思わずオジマンディアスの胸元に顔を寄せて隠れてしまった。


「…貴様、不敬であるぞ。我を見て隠れるなど」

「マスター、僕たちは謝りに来たんだ」


何を言われるのかと怯えていたのを見て、アーサーが優しく声をかけてくる。オジマンディアスから離れて視線を戻すと、オジマンディアスもため息をついてベッドから離れて立ち上がった。
唯斗もベッドの淵に座り直す。


「すまなかったね、マスター。僕こそ、君がつらいときに隣にいなければならなかったのに、大人として、あまりに情けない」

「あ…いや、」


ここでキスされたときのことを思い出し、気まずさがこみ上げて目線を逸らす。
せっかく謝罪してくれているのに失礼だっただろうか、と思っていると、今度はギルガメッシュが口を開いた。


「……貴様を見誤っていた」

「っ、」

「いや、責めるものではない。王として、臣下の状況を見極めるのも努め。大人びた様子によって、まだ16かそこらの子供だという意識がなかった。貴様の過去のことも含め、もう少し言葉を選ぶ余地があったことは認めよう」


謝罪の言葉こそなかったが、己の非を認めるのは同義だ。子供だという意識がなかったということ、そして、地雷となり得る言葉を避けることはできたという反省を示したのである。


「…ギルガメッシュの言うとおりだったから、間違ったことは言ってなかった。自分で自分をコントロールできなくなってた時点で、俺は誰かを頼らなきゃいけなかった。過信してた」

「誰に頼れたと言うのだ。貴様の抱えているものは、そこな騎士王くらいしかいなかったであろう」


確かに、今回のようなシミュレーションによる荒療治を除けば、アーサーがガウェインを仲介して少しずつ距離を回復する他なかっただろう。
それなのに、アーサーとは距離が空いていたため、唯斗は八方ふさがりだったのだ。


351/460
prev next
back
表紙へ戻る