居場所は最初から−18
「…うん、よし。バイタルは適正値に戻ったね。良かった良かった」
あれから数日後、医務室で、前と同じようにベッドで計測器をつけられ、バイタルチェックを受けると、数値は元の水準を取り戻していた。
PCを確認するロマニの言葉に、唯斗もホッとする。
あれから、エミヤからなぜか丁重に謝罪を受け、吐き続けて弱った胃や食道に配慮した食事を続けていた。
おかげでなんとかバイタルは以前の数値に戻ったらしい。もともとギリギリだったところ、第六特異点での疲労と火傷による食事制限もあって、今回のことが数字にはっきり出てしまったとのことだ。
「どうなることかと思いましたが…本当に良かった」
「迷惑かけてごめん、サンソン」
ベッドのすぐ横で様子を見守っていたサンソンは、ロマニの計測値を一瞬確認してから、計測機器を唯斗の体から外していく。
すべて外してもらい、上体を起こしたところで謝罪すると、サンソンに頭を撫でられる。
「迷惑とは思っていませんよ。怪我をしたわけでもないので。あなたが健やかでいてくれるなら、それで十分です」
「…ん、ありがとう」
唯斗は体を倒して、サンソンの腹にぐりぐりと頭を押し付ける。
混乱してガンドを誤射してしまったことは、すでに何度か謝っているが、サンソンは気にするなといつも返してくれる。そして、もう謝らなくていい、ということも言わずに、毎度唯斗の罪悪感の発露を受け止めてくれていた。
気にするなとはいいつつ、気にしてしまう唯斗を受け止めてくれるサンソンの優しさに救われている。
「唯斗君はちょっと吹っ切れたかな?」
それを見て、ロマニは柔らかにほほ笑んだ。吹っ切れた、というのがよく分からず首をかしげると、相変わらず頭を撫でつけてくるサンソンも頷いた。
「そうですね、良い意味で遠慮がなくなったというか、より自然体に近いのではないですか?」
「今までも偽ってなかったけどな」
「気を張っていただろう?それがなくなって、なんというか、丸くなったのかな」
ロマニとサンソンはともに認識を共有しているようだ。
確かに、なんだかあの騒動を経て、肩の力が抜けたというか、気が張っていた状態ではなくなったという指摘はその通りに感じられた。
「…サンソンは、今の俺でもいいか?」
「どんなあなたでも、閉じ込めてしまいたいくらい愛しいですよ」
「そっか」
「……いやいや、今すごいこと言ってたよ!?」
答えの分かっていることをあえて聞く、という何気ないやり取りにすら竦んでいたが、そういうことも気にしなくなったかもしれない。
ロマニはサンソンの回答にぎょっとしたが、サンソンはけろりとしている。
「マスターはこの手の感情をサーヴァントから向けられ慣れているので」
「いつの間にそんなものに慣れていたんだい君は…いやまぁ、正直サンソンとディルムッドはなんとなく分かるけど」
「僕とディルムッドだけではありませんよ。アーラシュやオジマンディアス王、アーサー王ももちろんそうでしょう。アキレウスも、いざとなったら連れ去るのでは?」
「それはまずい、非常にまずいぞ…唯斗君、くれぐれも、ギルガメッシュ王まで落とさないようにね」
いつの間にかそれ以外が落ちたかのような言い方だが、サンソンとディルムッド、アーラシュ、アーサーははっきり言葉にしたものの、他の英霊たちはそうではない。
一応、フラットな関係だと思っている。オジマンディアスは興が乗っただけだろう。
だが迂闊にそういうことを言うとまずい目に遭うといい加減に学んでいるため、唯斗は「分かってる」と無難に返すだけに留めた。
それを見て、サンソンは少しからかうような笑みを浮かべた。
「そっち方面でも、少し賢くなりましたね」
「絶対自分が流されるって自覚がある分な、シラフのうちに警戒心持っておこうって決めた」
「ちょっと遅かったですが、まぁ良しとしましょう」
そう言いつつ、サンソンがするりと唯斗のうなじを撫でてきて、ぞわぞわとして「ぅあ、」と声を漏らす。
途端にロマニが割って入った。
「こらこらこら!僕の目が黒いうちは医務室での不純な言動は許さないぞ!ほら、唯斗君は現時刻より通常勤務に戻るように」
「了解」
意外と手が早いサンソンに、唯斗はちょっと油断したと反省した。